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“連絡くれれば迎えに行く”

ゴジータさんから送られてきたこの文面を見て変に緊張している自分がいた。
その証拠に大好きなタピオカドリンクも途中から喉を通らない。重症だ。

仕事が終わってから彼氏とデートなんて私にしては充実し過ぎていないか。ちょっと怖くなって来た。


「おかえり」
「た、ただいま…」

待ち合わせ場所に指定されたのは会社の近くにあるバス停のベンチ。と言っても彼はベンチに座ることはなく律儀に立って待っていたけど。

「どうしてここに?もう少し行ったら喫茶店とかありますよ?」
「はやく会いたかった」
「…え?えぇ?ゴジータさん熱でもあるんじゃ…」
「あとは男と一緒に出てこないか確認するため」
「…結構凝ってますね」
「恋人の心配ぐらいするさ」

すっとスマートに回された腕にしっかりと腰を捕らえられてしまったので逃げられそうにない。
そんなことより近っ。近いよゴジータさん。

「あの、ゴジータさん…?」
「ん?」
「人前で恥ずかしいかな、と」
「人前じゃなかったらいいのか?」
「たぶん…」



「わーーっ!!ゴジータさん待って待って!」
「人前じゃないだろ?」
「でも!でも!」

確かにさっきと違って人目は気にしなくて良くなったが別の問題が発生している。
何度も言うけど近い。とにかく近い。恋人ってこんなすぐ近くにいるものなんだ…。

「俺の家じゃ不満か?」
「そうじゃなくて…」
「(……緊張してる、か)」
「ほ、ほんとに、いろいろ初めてで…」
「なまえが嫌がることはしない」

玄関先でぎゅっと抱き締められてもともと近かった距離が一層詰まる。
不思議な話で、苦しくない程度に、でもふんわりと優しさも感じられる力加減で心地良かった。

「これも嫌か?」
「これは…大丈夫」
「なら、これは?」
「ふぇ…ッ」

少し屈んだゴジータさんと目線が同じになって少し視界が暗くなる。
もうどこを見たらいいのか分からなくて彼の睫毛を見つめるのに必死だ。

「嫌なら拒否してくれればいい」
「…は…はい…っ」
「…………」
「(ち、ちかい……)」
「肯定と受け取っていいな?」

ゴジータさんの服を握り締めながら2、3度頷くとぎゅっと目を閉じた。最後に見たのは少し顔を傾けたゴジータさんだった。

「…私のファーストキス…」
「ああ。誰にもやりたくなかった」
「私が拒否したらどうしてたんですか」
「どうしてただろうな。やめてたかもしれないしやめられなかったかもしれない」
「曖昧ですね…」

初めてのキスはできることなら好きな人と、欲を言えばちゃんと私を好きでいてくれている人としたかった。でも私も拒否しなかったし…。

「ゴジータさんは…良かったんですか?」
「なにが」
「都合のいい相手にしては丁寧に扱いすぎなんじゃないですか」
「乱暴にされたいってことか?」
「ち、ちがいます!」

慌てて否定をすれば「冗談だ」ってからかわれて、真面目に質問しただけに正直いい気はしなかった。
それが顔に出てしまっていたのか私の眉間を指先でつついた彼は少し申し訳なさそうに眉を下げた。

「遊びだったとしても彼女のことは大切にする。俺が本気じゃなくても彼女が本気じゃなくてもな」
「それって……」

やっぱり私とは遊びだってことですよね。ゴジータさん。


20190528



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