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「荷物はオレが取ってくる」
ゴテンクスくんが頭を撫でながらそう言ってくれたけれど自分で行くからと説得中。
結局、ゴテンクスくんの家まで迎えに来てくれたゴジータさんと私がちゃんと顔を合わすことはなかった。正直会っても気まずい。
だからゴテンクスくんが荷物を取って来てくれるというのは願ったり叶ったりな提案だったけど、最後ぐらいゴジータさんにちゃんとお礼を言いたい。
「まぁなまえの気持ちは分かるけど。それ、行かなきゃなんねーの?」
「だめ…かな?」
「行かせたくないなーって」
「…?」
「オレ神様でもなんでもないし、自分以外の男のところに行くなんて嫌に決まってる」
そっぽを向きながら照れくさそうにしている彼に思わず頬が緩んだ。
可愛いなぁ…。純粋というか。照れ屋な年下の破壊力おそるべし。
「ごめんね。でも行かなきゃ」
「わかった。近くで待ってる」
そう言って私をゴジータさんの家の前まで送ってくれると彼は笑って手を振った。
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呼び鈴を押す手がふるふると震えている自覚はあった。だけどここまで来て逃げるわけにも行かないので押してしまったものは仕方ないといった心境だ。この際腹を括ろう。
「………」
「こ、こんばんはー……」
開いた扉からは当たり前のように家主が顔を出した。表情だけで判断するのは危険だけれど特別怖い顔をしているわけじゃなくてホッとした。
「どうぞ」
「お…お邪魔します…」
さっき女性物の靴が置かれていた玄関にはゴジータさんの靴と自宅から持って来た私のスニーカーがあるだけだった。
ゴジータさんの靴と並んでいる自分の靴を見て、もうすぐこの生活も終わってしまうんだと胸がぎゅっとなった。
もうここに帰って来ることも、当たり前のようにゴジータさんの靴の横に自分の履物を並べることもできなくなる。
ゴジータさんのと比べると随分と小さく見える私のスニーカー。
最近ゴジータさんが気を利かせて洗ってくれたので新品のように綺麗な状態だ。
「なまえ」
「……?」
「おかえり」
両腕でふわりと抱き締められて言葉に詰まる。
少しでも気を抜いたら良からぬものが溢れ出しそうだ。
少し安心したのかもしれない。
ゴジータさんが私の帰りを待ってくれていることに。
「た…」
「ん?」
「ただいま……」
絞り出した声は掠れていてきっと聞けたもんじゃなかったと思うけど、ゴジータさんの胸にすり寄るともう一度「おかえり」と言ってくれた。
20190831