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「じゃーまた明日、店で」

そう言ってゴテンクスくんと解散したのは約5分前のこと。一日中遊び回って外も暗いからと家の前(正確にはゴジータさんの家)まで送ってもらったわけだがヘタレな私は未だに家の中に入れずにいる。

玄関の鍵穴に念のためにと渡されていた合鍵を差し込んだところまではよかった。いつも必ず鍵をかけるゴジータさんだから当然鍵を回せば開くはずのそれは逆に施錠されることになった。ということはもともと鍵が開いていたということで。

この時はゴジータさん無用心だな、なんて呑気に扉を開けたわけだがそこには見慣れない女性物の靴があって、おそるおそる中に入って扉の隙間からリビングを覗き込めばゴジータさんがそれはそれはお美しい女の人とお喋りしていたわけで。咄嗟に外に出て家の前で深呼吸をひとつ。

いや、もともと恋人の一人や二人居ても何らおかしな事ではないし、あれほどの美人が彼女だとしてもその彼氏があのゴジータさんならまぁ納得というのが本音で。

もし、ゴジータさんが恋人と同棲したり結婚したりしたら。簡単に私の居場所は無くなる。


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「あれ、どうかした?もしかしてゴジータに怒られた?」

どうしようもなく逃げ込んだ近くのコンビニにはさっき手を振って別れたはずのゴテンクスくんの姿があった。
ついでにと買ってもらったカフェオレと可愛い袋に入ったソフトキャンディを両手に持ってコンビニの前に座り込むと彼は隣で私と全く同じカフェオレにストローをさした。

「ゴジータはズルいよな」
「うん。…すっごく」
「付き合ってもないのに独り占めはないよなー」
「独り占め?」
「してんじゃん。なまえのこと」

あけぐちと書かれた部分を横にさいてからソフトキャンディの甘い香りが広がる袋に親指と人差し指を突っ込んだ。

独り占めもなにもゴジータさんには恋人がいて、私を独り占めする理由なんて何もない。

「さっきまではね、私も独り占めされてるんだって思ってた」
「さっきまで?」
「新しいおもちゃが欲しかったのか…ただ単に刺激が欲しかったのか…それとも根っからの善人なのか…」
「なんの話?」
「こっちの話」

ゴテンクスくんに何言ってんだ私。愚痴をこぼしたところでただの憂さ晴らしに過ぎないのに、その相手をさせられる彼もいい迷惑じゃないか。

「なまえが話したくないなら詳しくは聞かない。でもゴジータのことなんだろ?」
「…うん」
「帰れないならオレん家来る?」
「えっ!?」
「今日ぐらいゴジータに意地悪してやれば?」
「そ、それはどういう……?」
「謝るまで帰らないって。それぐらい言わないと良いように扱われるだけだろ?」
「それもそうか…な。そうだよね…」
「ん?」
「泊めてもらえるなら…そうしたい」

ずっとカフェオレを持ったままだった手はすっかり冷たくなってしまっていて軽く水滴もついている。
その手をゴテンクスくんに握り締められて、この状況にもこれから彼の自宅に一緒に向かうことにも少なからず戸惑いはあるはずなのに、不思議と彼について行ってしまう自分がいた。



20190813



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