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□年下ベジットに翻弄される
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施錠をしっかりとしたことを確認してからマンションのロビーを抜けて歩くこと約3分。あまりひと気のない狭い道の端に自動販売機がふたつ並ぶこの場所でいつも声を掛けてくる学生がいた。

「なまえさん」
「おはよう」

この日も学生くんは足を止めない私の腕を引いて無理矢理その場に留まらせようとした。

やんちゃそうな顔をしていてアクセサリーだったり髪色だったり、たぶん不良だ。(あくまで勝手なイメージ)おそらく学校もまともに行っていないのだろうが何故かいつも制服姿。これは家族には学校に行くふりをして遊びに出ているとみた。

「学校はちゃんと行こうね?ベジットくん」
「そこそこ行ってる」
「そこそこじゃ駄目だよ?」
「楽しいこともねぇしさ」
「彼女とか居ないの?モテるでしょ」
「なまえさんが彼女になってくれたら行く気になるかも」

首の後ろをホールドされて何を考えているのか理解不能な瞳で見つめられる。どうやら私はこの学生くんに気に入られたらしく毎朝こんな調子だ。だけどタイムリミットももちろん近付いているわけで。

「仕事行かなきゃ。また明日ね」
「嫌って言ったら?」
「交番に迷子として送り届けます」
「高校生が迷子かよ」
「じゃあちゃんと学校に行って勉強しておいで」

いつもなら「また明日」ってすんなり解放されるのに今日はわりと粘り強い。何か嫌なことでもあったのだろうか。って言っても私には関係のない事だけど。

「毎日こんなおばさんの相手しててよく飽きないね」
「お姉さん、じゃなくて?」
「高校生から見たらお姉さんじゃないでしょ?」
「なまえさんの年齢知らねぇけど童顔っぽいし彼女にしたいって思うぐらいだからおばさんなんて思ったことねーよ」
「あのねぇ……」

この学生くんは一体どこまで本気なんだか。若気の至りってやつか。怖い怖い。これでちょっとでも引っ掛かろうものなら学生の間で笑いものにされるんだからきっと。


「よっこらせ」
「あれ…学校行く気になった?」
「んー、それはなまえさん次第」
「?」
「俺は本気」
「なにが?」
「なまえさんのこと」

まさかそう来たかと頭を抱えながら高校生にしては大人びた端正な顔を見てぶんぶん顔を左右に振った。

「言うだけなら誰でも言えるんだから」
「信用ねえなぁ…」
「ないよ。ベジットくんのこと何も知らない」
「ならもっと知ればいい」

ぐいっと力任せに引かれた身体が彼に受け止められて思ったよりもガッシリとしている身体に抱き締められる。

高校生と言ってもさすがに背は私よりも高いし力も強いはず。学生じゃなかったらころっと落ちてたのかも。

「…年下は好きじゃない」
「俺も年上が好きなわけじゃねーけどなまえさんは好きになった」
「もう…」
「明日も待ってる。明後日もその次も」
「じゃあベジットくんが飽きるまでは付き合ってあげる」

半ば折れましたと言わんばかりに笑うと彼は目を大きくしたあと「飽きねぇよ」と言って嬉しそうにキラキラと笑った。


20190509



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