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「この引き出しに入ってるスマホってなまえのだろ?」

ベジットさんの手の中にあるスマートフォンはまさしく私が以前カウンターの引き出しにしまっておいた物だった。電源はずっと落ちたままだけれど今となっては解約して使い道のないものだからとくに問題はない。

「使わねーの?」
「必要性を感じないと言うか…」
「連絡取りたい相手とかさ」
「そう思う人とは毎日一緒に居るんですよねぇ…」

その言葉と共に今現在お客さんとお喋りしているゴジータさんをチラッと見てみる。今日はこれまでにないくらいお店が暇な状態なのでゴジータさんもそのお客さんに呼ばれて中から出てきている。美人が相手だからって楽しそうにお喋りしちゃってさ。

「嫌々あいつと居るんだと思ってた」
「嫌…ではないですかね」
「まぁさ、あんなんでも仕事以外では女の相手しねぇから」
「へぇ〜…別に興味ないですけど」
「わかりやすいこって」
「あ、私がヤキモチ焼いてると思ってます?ないです。彼氏でもない人に」
「悪い悪い。怒んなって」
「怒ってないです」

って言いながらも実際問題ムカムカしている自分がいるのは自覚していて。私にはゴテンクスくんと仲良くするな、なんて言うくせに自分は平気で他の女の人と仲良くするゴジータさんにどこかモヤモヤしているのも本当で。

「……バカみたい」

一緒にすんでいるからといって自分は彼にとって特別な存在ではないのだと言われているみたいですこぶる気分が悪かった。


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閉店の準備をしながら何だか今日一日中そわそわしていた様子のゴテンクスくんにテーブルを拭いているところで腕を引かれた。「あのさ、」と何か言いづらいことを今から口にするのだと言わんばかりの雰囲気に少し緊張が走る。

「えっと…どうしたの?」
「明日店休みだしどっか遊びに行けないかなーって…ふたりでさ」
「ふたりで?」
「いや、なんて言うか、ふたりで出掛けてみたいかなって」
「…ふたりでお出掛けかぁ」
「やっぱゴジータが許さないか」
「いいよ。行こ」
「え、マジ?」
「うん。その代わりゴジータさんに怒られる時は一緒に怒られてね」
「りょーかい!」

可愛らしく口元の緩んだゴテンクスくんに行きたいところはあるか、食べたいものはあるかなどなど半ば質問攻めにあうような形にはなったが明日は二人の意見が合致したテーマパークに行くという予定で丸く収まった。

ここ最近遊びに行くことなんて無いに等しかった。ゴジータさんと一緒に住んでるから家に居ても退屈しなかったし。

「…ゴジータさん、怒るかな」
「まぁ怒るとは思う」
「やっぱそうかな」
「なんでそこまで束縛されてんの?」
「うーん…拾われたペットみたいなもんだから…かな?」
「うん?」
「ゴジータさんに助けてもらったから」
「そういや酔ったなまえをゴジータが連れて帰ったって聞いたけど」
「うん。私は全然覚えてないんだけど家に帰りたくなかったのはほんと」
「そんでもそれってさ、」

ぐい、と肩を抱き寄せられた勢いでゴテンクスくんにぶつかってしまいそうになったが辛うじてぶつからずには済んだ。何かを言いかけていたようだが今にも鼻がぶつかってしまいそうなほど近くにある彼のお顔で私はそれどころではない。

「連れて帰ったのがゴジータじゃなかったらオレでも良かった?」
「……えっと、…わからない。ごめん」


もしあの時、連れて帰ってくれたのがゴジータさんじゃなかったら。

多分私は今でも自分の家に一人で住んでいると思う。



20190730



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