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「お風呂お先でした」

ぽかぽかの身体でリビングにやって来ると調度いいぐらいに涼しくて気持ちがいい。まだ冷房は必要ないけれど最近はお風呂上りが暑くて困ったものだ。

今日も私はお兄さんの部屋着に包まれている。自分の部屋着は全て処分してしまったから。今思えばここに持って来ればよかったけれどあの時は思い切って全部捨ててしまおうという勢いだったから普段着も数着しか残っていない。それでも今のところ困ることは何もない。普通の生活を送れている。はず。


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「なぁ、」
「?」
「ゴテンクスと仲良くし過ぎだ」
「そ、そんなこと…」
「あいつの指の絆創膏、お前だろう?」
「そうですけど…血が出てたから…」
「そうやって優しくするから勘違いされるんだ」
「勘違いなんてしてるわけない…。ちゃんと喋ったのは今日が初めてだし…」
「そういう問題じゃない」

壁際に追いやられて彼の手がドン、と壁を叩いた。大きな音にびくりと震えた身体が突然彼の両腕に抱き締められて固く閉じていた瞳をゆっくり開くと彼が着ている白いシャツが視界いっぱいに広がった。

「お兄さ…ん、?」
「ゴテンクスはいい奴だ」
「……はい」
「でも渡す気はない」
「…は、い」
「馴れ馴れしく呼び捨てさせるな」
「それは…ちょっと…」
「それに、あいつの名前は呼ぶくせに俺の名前は呼べないのか?」
「ゴ…、ゴジータさん、」
「次お兄さんって呼んだら罰ゲーム」
「…子供みたい」
「なんだ?」
「な、なんでもないです」

思わずクスクスと笑いが漏れてしまう。罰ゲームだなんて発想は子供みたいで可愛いけれど実際はどんな罰を与えられるのか考えるだけで背筋が凍りそう…。

これが“お兄さん”を封印するいいきっかけになった。



「あ、ベジットさん、おはようございます」
「んー、はよ」

開店前に清掃をしながら鼻歌を歌っていると意外にも早くベジットさんが出勤して来た。今日はゴジータさんが掃除当番なので彼は少し遅めのシフトのはずだけれど。

「時間間違えた」
「ですよね」
「ゴジータは?」
「キッチンにいると思います」
「じゃー休憩室でもうひと眠りすっかな」
「どうぞごゆっくり」

欠伸をしながらスタッフルームに入って行くベジットさんに笑みが溢れる。いつの間にか私はこのお店の一員みたいになった。ゴジータさんは少し嫌そうだったけれど人手が足りていなかったこともあるしベジットさんとゴテンクスくんが快く迎え入れてくれたのもあって今ではお手伝いさんを卒業して一従業員としてこのお店に来ている。

「おはよー」
「あれ、ゴテンクスくん早いね?ベジットさんと同じで時間間違えた?」
「開店前はバタバタするからなまえが慌ててるんじゃないかって思ってさ」

笑顔でそう言うゴテンクスくんがキラキラと輝いて見える。年下だけどこういうところはすごく頼もしい。

外の掃き掃除を終えて一緒にお店に入るときょろきょろと中を見回した彼は私の背丈に合うように少し屈んで耳打ちをした。

「ベジットもさ、心配だから早く来たんだと思う」
「え、ほんと?」
「たぶんな」
「だいぶ慣れて来たから大丈夫だよ?それにゴジータさんも…」
「俺がなんだって?」
「ゴジータは口うるさいよなって」
「違うから!」

このお店には今日も朝から爆弾が投下された。



20190707



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