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□ゴジータ
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今、なにしてる?
自分が打ち込んだ文章が画面に表示されてから少し、ほんの少しだけ悩んだあと送信ボタンを押した。このメールを受け取る人物は機械はあまり得意じゃないらしく流行のアプリやゲームなんてもってのほかだと言って今でも普通のメールでやり取りをしている。
別に問題なくメールや電話ができるなら私的には何だってオッケー。可愛いスタンプを使ったやり取りができなくても同じゲームをして楽しめなくても、こうやって連絡が取れるならそれだけで。
もちろん私が送ったメールを彼が見たかどうかなんて知る術もない。ただ単にまだ見てないだけかもしれないし、もしかしたら見たけど返信してもらえなかったのかもしれない。気にはなるけど既読スルーという現実を突き付けられるのはもっと辛いから、きっとまだ見ていないんだと淡い期待を抱けるこちらの方が幾分気持ちがラクなものだ。
*
結局、お風呂に入ってそれからしばらく無駄な時間を過ごしたけれど彼からの返信はなかった。さすがにまだメールを見ていないなんて淡い期待をするだけ虚しくなってきた。
「……ちゃんと送信したよね」
もしかしたら悩んだ挙句メールそのものを送っていなかったのかもしれないと我ながら馬鹿なことを考えながらメールの画面を確認した時だった。
背後から伸びてきた骨張った手に自分の手をぎゅっと握り締められて「お待たせ」と耳元で囁かれる。
「…うん、すっごく待ったよ」
「そう思ったからこれでも急いで来たんだ。あまり怒らないでくれ」
「メールは?」
「メール?」
「ずいぶん前に送った」
「そういえばずっと見てないな」
「でしょうね」
きっとバタバタしててスマートフォンの存在だって忘れていたんだろう。ほんと恋愛とか彼女とか向いてない人なんだなって思う。
「今なにしてる…か」
「なに送ったらいいのか分からなくてとりあえず聞いてみた」
私が送ったメールを今頃確認して、その内容を読み上げた彼は何故だか嬉しそうに微笑んだあと慣れない手つきでスマートフォンを操作し始めた。彼がふぅ、と息を吐くと途端に私のスマートフォンにメールが届いた。送り主はすぐ近くにいる彼からだった。
“可愛い彼女に会いに来てる。そっちは?”
「…かっこいい彼氏が会いに来てくれたとこ」
小さく小さく呟くと彼は少し照れくさそうに頬をかいた。