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目を覚ましたら同居人であるお兄さんの顔がすぐ近くにあって飛び起きるようにしてベッドから出た。これは刺激が強過ぎる。なんて朝から心臓に悪いことだろう。

「お、おはようございます」
「おはよう。起きたばかりで悪いが少し相談があるんだ」
「はい、?」


07


言われるがまま連れてこられたのは例の私が酔い潰れたというバーだ。まぁ彼にとっては職場らしい。

着いて早速、今まで放置していた鞄を手渡されて感動で言葉も出なかった。とりあえずスマホを確認しようと鞄の中を漁るがお目当てのものが見つからずに若干焦り始める。
もしかしてどこかに落として来てしまったのだろうか。そうなると色々と面倒だ。

「探してるのはこれか?」

大きな手に収められたお目当てのものに安堵の息が漏れた。見つかって良かったと泣き出してしまいそうな情緒で受け取ろうとした手は呆気なく掴み取られて目線だけがスマホを捉えている。

「俺から離れて行かないと誓ってくれるか?」
「…え?」
「それで他の人間と連絡を取って俺から逃げるかもしれない」
「ちょっ…と待って下さい。急にそんなこと言われても…」

彼が何を言いたいのか、私に何を伝えたいのか、まったく理解できないまま掴まれた手が震える。軽い脅迫だとも解釈できるが動揺はしても怖いという感情は全くないのだから不思議な話だ。

「じゃあそれ、お兄さんにあげます」
「……?」
「どこにも行きません。今すぐ連絡を取りたいと思う人もいません」

そう言って笑うと彼は溜息を吐きながらスマートフォンを私に差し出した。
困ったような表情で悪かったと謝罪をして少し痛かった手首を優しく撫でてくれる大きな手はゴツゴツとしていて男らしい。

「それに…自分で決めて今ここにいます」
「…君には勝てそうにない」
「私もお兄さんに勝てる気はしないです。相打ちですね」
「ああ、そうしよう」

満面の笑みとは言い難い笑みを浮かべた彼の後ろでガチャンと扉が開く音がする。まだ開店していないけどお客さんが来たのだろうかと慌てていると以前見たバーテンダーのお兄さんが欠伸をしながら登場した。



20190604



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