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□06
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見慣れたアパートを見つめながらキーケースに付けてある銀色の鍵を握り締めた。
まったく愛着が無いことはない。でもどちらかと言うと好きではなかったのかもしれない。

「後悔は?」
「しない…と思う」

もともとそんなに荷物が多いほうではなかった一人暮らしの部屋はあっという間に空っぽになった。
思いきってほとんどのものを処分して服を数着彼の家に置かせてもらった。あとはこの鍵をポストに入れればここはもう私の家ではなくなってしまう。本当に大丈夫だろうか。当たり前に不安は募る。

「………」
「俺のところに来い」

躊躇していた私の手を握り締めてそう言う彼にこくりと頷いて二人で一緒に鍵をポストへ入れた。我ながらぶっ飛んだ行動だと思う。知り合って間もない男の人の家にこれから住もうとしているのだから。


06


彼が仕事に行って一人になった家で考え込むこと早3分。さっきから呼び鈴が鳴り続けている。もちろん居留守を使う気満々でいるため出る気はないが3分もピンポンピンポンと何だか少し申し訳ない気になって来た。
でも彼に来客があっても無視しろと言われたしこのままスルーの方向で。ごめんなさいお客さま。

「おーいゴジータ、勝手に入るからなー」

その声とともに開けられた扉の隙間から冷たい風が吹き込んだ。まさか鍵をし忘れた?いや、彼が出て行ってすぐにかけたはず。

「…あれ、部屋間違え…てない、よな」
「えっと…この家のお兄さんなら仕事に行きました…けど」
「もしかしてゴジータの彼女…とか?」

困ったような青年に全力で首を横に振った。今更だが同居人の名前さえ知らなかったことに自分も驚いているが、おそらくあのお兄さんの名前だろうと勝手に解釈。話を聞けばもともと合鍵を渡されていたから今も入ってこられたんだとか。

お互いに何となく気まずい空気になったけれど結局彼は家に上がることはないまま家主が居ないなら帰ると言って消えてしまった。



「あの…お昼頃お客さんが来ました」
「出たのか?」
「居留守してたら合鍵で入ってきちゃって…変わった髪色の可愛らしい人が」
「ゴテンクスか」

ひとりで納得したあと私の身体を引き寄せてキスをする彼に思わず赤面させられる。こういう事は恋人同士がすることだと思うのだけれど不思議と嫌な気はしないから拒否もしない。

「タイプだったか?」
「へ?…いや、ただ可愛いなと思っただけで」
「ふーん?」
「な、なんですか?もしかしてやきもち…とか?」
「そうかもな」

優しく頭をぽんぽんとして隣をすり抜けて行った彼に溜息が漏れる。もしかしなくても、ものすごく振り回されているんじゃないだろうか。



20190522 ※ゴテンクスは青年期設定



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