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二人分の服を干し終えてバルコニーから家の中へと戻る。今日はものすごく天気がいいから洗濯物も早く乾きそうだ。

コンビニに行くと言って出て行った彼が今この場にいないうちに鏡の前で軽く身支度を済ませる。自分の家に帰る準備…というほど大掛かりなものではないけれど一応。
確かバーに行った日はワンピースに合う鞄を持っていたはずだけれどそれは今手元にない。彼に聞いたら私が酔い潰れたあの日にこんなもの要らないとブチ切れてお店に置いてきてしまったらしいが忘れ物として大切に保管してくれていると言うから帰りに寄って行く予定だ。


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「お世話になりました。ご迷惑をおかけしてすいません」
「どういたしまして」

ぺこりと下げた頭を優しく撫でられて思わず距離をとった。ここに来てたくさんドキドキすることがあったけれど彼と出会って久々に人の温もりに触れたような気がして心がほこほこしている。

「送っていこうか」
「大丈夫です。お店に置いてきた鞄にスマホが入ってるので地図を見ながら帰ります」

玄関でもう一度深々と頭を下げて彼にお礼の言葉を述べる。この時間、あのお店はまだ開店していないけど早番で清掃に来ている従業員がいるから大丈夫だと言われた。事情を話せば私の鞄だとすぐに分かってもらえるだろうか。

「また飲みに行きます」
「ああ。待ってる」

これだけお世話になったのだからお礼をする気持ちはちゃんと持ち合わせている。なんだか非現実的な時間だった。まるで夢の中にいるような、そんな気分だ。

ここを出て自分の家に帰ればそれと同時に現実に引き戻される。誰もいないあの部屋でひとりで現実と向き合わなければならないのだ。

「やっぱり行かせられない」
「……っ、」

掴まれた腕を引っ張られて家の中に引き込まれる。玄関の扉が音を立てて閉まったあと彼に抱き締められたまま、また夢を見ているみたいだと非現実的な時間に酔いしれた。



20190522



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