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お兄さんに借りた服を脱いで洗濯機の中に放り込んだ。やっぱり自分の服の方がしっくり来る。昨日彼がハンガーにかけておいてくれたお気に入りのワンピースに袖を通してキッチンに立つ。朝食を作ったら食べてもらえるだろうか。

「早いな」
「も、もう起きたんですか?」
「隣で寝ていた人間が起きて行ったらさすがにな」
「…起こしちゃったんですね」
「気にしなくていい。俺が作るよ」

後ろから伸ばされた手にフライパンを奪い取られて立場が逆転する。お休み中の彼を起こした挙句に朝食まで作らせるなんて酷い女だと自分でも思う。だからお手伝いぐらいしようと指定された食器を机に並べると「ありがとう」と微笑まれる。

誰かと一緒に生活するってこんな感じなのかな。なんだかほっこりする。最近の私は毎日ひとり分のご飯を作るのも面倒になって来て気が付けば買って済ませる日が多くなっていたっけ。

「食事はしっかり取った方がいい」
「お兄さんは毎日こんな感じ?」
「君が居るってこと以外はこんな感じだな」

豪快にフライパンを揺する彼にしばし見惚れながらすぐ隣で朝食が出来上がるのを大人しく待ちわびていた。


04


「料理上手なんですね。この前食べた炒飯も……って炒飯!ごめんなさい勝手に食べちゃったんです!」
「そのつもりで置いて行ったから食べてもらわないとむしろ困る」
「す、すいません、ご馳走様でした!おいしかったです」
「…………」
「?」
「……君はまっすぐだな」

親指で口元をなぞられてご飯を咀嚼していた口の動きが止まる。今更だけれど少しスキンシップが激しめではないだろうか。昨日もわりと何回もキスしたし…って思い出したら恥ずかしいからやめよう。

「お兄さん…もしかして肉食系男子ってやつですか」
「そう見えるか?」
「結構積極的だなと」
「どちらかと言えば君の方が積極的だと思う」
「わたし…ですか?」

とんでもございません。とてもじゃないけどガツガツ行けるような強いハートは持ち合わせておりません。そう言いかけた口が彼の口で塞がれる。もしかしてこの人はキス魔か何か。

「…っ、ん、」
「一昨日は酔った君にずいぶん楽しませてもらった。上に乗られたのは予想外だったけどな」
「う、うえに、の、る……?」

サーっと血の気が引いていく。とりあえず一刻も早くこの場から立ち去りたい。



20190506



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