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「昨日は随分積極的だった」
「…もう大丈夫です、できれば聞きたくない」
「覚えてないなら思い出させてやらないと」
「…忘れたままでいたいです」


03


至近距離にある顔にどきどきと心臓がうるさくなって思わず目を逸らした。さっきから何度も重ねられる唇に熱を与えられているようで身体が火照る。

「あったかい…」
「俺も帰ってきた時に同じことを思った」
「ほこほこしてました?」
「あぁ、誰かが待ってくれてる家はいいもんだな」

最後に額にキスをして離れて行く姿をしばらく見つめていた。振り返った彼と目が合ってお互いに少し笑みを浮かべると夜も遅いのにふたりで一緒にご飯を作ってそれを食べて順番にお風呂に入り同じベッドに横になった。ソファーでいいと言ったのに聞く耳を持たずにベッドに引き込まれればまぁいいかという気にもなる。彼の睡眠を邪魔しないようにできるだけ端っこで寝よう。

「もっとこっちに来い」
「でも…」
「昨日はこうやって寝ただろ?」
「覚えてない…」

一体どれだけ甘えてしまったんだろう。もしかして気持ち悪いぐらいにベッタリだったのかもしれない。彼の話を聞く限りかなりの甘えただったみたいで自分が怖い。人ってアルコールでここまで変わってしまうのか…。

「ちかい…」
「近くても遠くても寝たら同じだ」
「…おやすみなさい」
「寝かさないと言ったら?」
「え?…えーっと…冗談、ですよね?」
「さあな」

抱き寄せられて石鹸の甘い匂いがふわりと香る。帰ってきたときは煙草のにおいがしたけれど家の中にそんな感じはないし彼が吸っているところも見ていないから服ににおいがついただけだったんだろうか。そう言えばバーテンダーのお兄さんと知り合いみたいだし私が酔い潰れた時に上がる時間だったって言ってたな。もしかしてあのお店の従業員、とか。

「お兄さん、仕事って…」
「君が酔い潰れたバー」
「…ですよね」

だから煙草のにおいがしたのか。納得。さっき一緒にキッチンに立った時すごく手際がいいなと思ったのもそのせいかもしれない。それにひとり暮らしだから自分でご飯を作ったりしてるのかな。いろいろ気にはなるけど眠過ぎてもう聞く余裕も残っていない。



20190426



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