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□傷つけるため
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もう勘弁してくれというのが本音だった。会うたびにガンガン自分をアピールしてくる目の前の女に「どうしたら好きになってくれる?」と聞かれて返答に困りながら好きになることはないと答えて、これが最後だと思った。

攻めるのは好きだが逆はそれほど得意じゃない。はっきり断ってやってもう俺に会いに来ることもアピールすることも無いと思っていたが、まぁまた懲りずにやって来て俺の腕にぎゅっとしがみ付いて来ているわけだ。

「ふわふわー」
「くっつくなって」
「だって好きなんだもん」

心の中で両手を挙げた。所謂降参だというポーズだ。恐らく彼女には何を言ってもダメだ。冷たく突き放しても俺を選んで俺のことを好きだという彼女に少しばかり心を持って行かれつつあるようだ。だが、この前好きになることはないと言った手前、認めるのも情けない。とりあえずこの気持ちが気のせいであることを願うだけだ。

「絶対に私のこと好きになってくれない?」
「なんねぇな」
「絶対?」
「絶対」
「少しも?」
「少しも」

聞かれたことに即答すると少しシュンとした彼女が俺の尻尾を指先で弄り始めたもんだからこれまた何を考えているのかサッパリだ。どうしてこんなにも俺のことを想うんだと聞けば分からないけど好きで仕方ないと笑った顔はいつもの笑顔とは打って変わって切なげで、ああもうダメだと思った時には既に華奢な身体を抱き締めている状態だった。

「お前とは付き合えねぇよ。だからこれで勘弁な」
「嫌だ…。余計に諦められなくなっちゃったじゃん…」

ベストをぎゅっと掴んだ彼女の目には涙が生産されていて、もういっその事いっぱい泣いて早く諦めてくれと願った。暫くして密着していた身体を離したのは彼女の方からで赤くなった目を擦りながら肩を震わせて「ごめんなさい。もう来ないから」と絞り出された声は掠れてしまっていた。

「いい子だな。それでいい」
「後悔しても知らないもん。こんなふわふわした人…好きになる人なんて居ないんだから」
「ま、そうだな」

ぽん、と彼女の頭の上に置いた手が自分の意に反して別れを惜しむようにその場から動こうとしない。どうしたもんか。自分から言っといて未練がましいよなまったく。

「なまえ」
「なに…」

顔を上げた彼女の後頭部を片手で乱暴に掻き抱いて押し付けるように唇を重ねてやると驚いた彼女は俺の身体を押し返すようにしながらくぐもった声を出した。俺のことが好きなくせにキスは嫌がるのかと現実と向き合えばもういい加減に彼女のことを壊してしまいそうで余所事を考えながら口内を貪り続けた。

「んぅ…はっ…苦し、」
「苦しくなるようにしたからな」
「ひどい」
「たったと忘れていい男見つけろよ」

背を向けながらヒラヒラと手を振って別れを告げた。彼女はもう追ってはこない。多少悪いことをしたなと思わないこともないが、まぁそれはそれで。

振り返ることもせずカッコつけて別れたはいいが、あいつはもう俺を諦めてしまうんだろうか。柄にもなく寂しいと感じていた。それでも俺が好きだとまた会いに来たらその時は思いっきり抱き締めてキスして俺もだと言ってやろう。そしたらさっきの彼女を傷つけるための乱暴なキスも俺の儲けもんだ。



20180917 odai / TOY



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