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□ええ好きですよ、悪いですか
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年下に興味が無いからとフラれたのは先月のことだ。告白をする前からある程度結果は出ているようなものだったが思ったよりもダメージが大きかったのは予想外だった。それでも諦めが悪い俺は毎日彼女に話し掛けて自分の存在をアピールした。その際に気まずい空気になったりするものだと多少は覚悟していたが、何事もなかったかのように接する彼女にまた恋焦がれた。

自分でも馬鹿だなと思う。年下に興味がない、むしろ年上の方が好きだという彼女を追い続けていつかこの恋が実ることはあるのだろうかと目の前の書類に判子を押しながら考える。誰かが俺に話しかけたところで俺の耳には届かない。でも、彼女は違った。

「ちょっとトランクス。聞こえてる?」
「…は、はい。すいません、なんですか?」
「ノックしたけど返事がないから勝手に入っちゃったよ」

扉を指して言う彼女に別にかまわないと返して目の前の書類に視線を戻す。判子を押すだけなのに終わらない。積み上げられた書類に溜め息をつきながら一枚また一枚と書類を横にスライドさせて行く。

「手伝おっか」
「大丈夫です。それより何か用があったんじゃないですか?」
「用ってわけじゃないんだけど、帰る前にトランクスの顔見てから帰ろうと思って」
「…俺の顔なんて見てどうするんですか?」
「今日は話し掛けてくれなかったから」

そういえばそうだった。今日は朝からずっと忙しかったため彼女に話し掛ける暇もなかった。押してもダメなら引いてみろ作戦みたいになってしまって腑に落ちないがどうやら計算したわけでもないのにそれは上手くいったようだ。

「気になりますか?」
「少し。日課みたいになってたから」
「なまえさんにも日課にしてもらえるとありがたいんですが」
「やだよ面倒くさい」
「ですよね」

冷めたように見えるかもしれないが彼女は実は寂しがりやで誰かに傍にいて欲しいと思っていることを俺は知っている。俺なら傍にいられるのに。

「なまえさん、家まで送りますよ」
「い、いいよ自分で帰れるし。まだ仕事終わってないでしょ?」
「後でやりますから。俺が心配なんです」
「…う、うん」

立ち上がって上着を羽織ると彼女の隣まで来て肩を抱いた。驚いたのか普段から大きな瞳をさらに大きくして俺の顔を見上げるが気が付かないフリをして歩き出した。

「ま、まって、ここ会社…」
「俺はかまいませんよ、誰に見られても」
「じゃなくて…見られたら嫉妬されそう」
「俺が護ります。それに…誰が見ても俺の方が惚れ込んでるって思いますよ?」
「いや…それはどうかな」
「諦めません。あなたが好きになってくれるまで」

立ち止まって額にそっとキスを降らせると綺麗な髪を指で梳きながら彼女の答えを待ってみた。少し気まずそうに自分のことを好きなのかと聞いて来た彼女にもちろん本気で好きだと返答した。

「ごめん、遊びで言ったのかと思ってたから…」
「遊びで言うような人間に見えますか?」
「そういうわけじゃないけど…ほんとに好き?」
「ええ、好きですよ。悪いですか?」
「わるく…ない」
「なら良かったです」

再び歩みを進めると頬を赤くした彼女が俺の服の裾をぎゅっと掴んだ。それを勝手に肯定と解釈する俺は都合がいいおめでたい男かもしれない。



20180813 title / 確かに恋だった



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