美貌の皇帝

□序章「始まりの声」
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後のジークヴァルト・フリードリヒ・フォン・ナミュール=ルクセンブルクは語る。


『産まれてきてくれてありがとう、ジークヴァルト』


常にその言葉を贈ってくれた心優しい母だった人の事を。


腹違いの姉弟とも良好な関係を築かせてくれ、そして貴族出でありながら他者を思いやる清い心を教えて

くれた大切な女性だった。その母は、妹を産んですぐに死んだ。帝国の在り様に異議を唱えた叛徒の

起こした謀反により、その尊い命は散った。門閥貴族の筆頭と言っても過言ではなかった彼女の死は

宮廷を騒然とさせた。


無理もない。


門閥貴族の筆頭とも言えた大貴族―――母の実家であり、嫡子であった母を失ったフォン・ナミュール=

ルクセンブルク大公家が途絶えたのだから。大公家が抱える爵位のうち、ロードリンゲンの名は母に

永遠に授けられた。母の死を悼んだ父が、母に贈ってくれた最後の想いでもある。そして、母の生前の

遺言により、私―――ジークヴァルトはローゼンハイムを賜った。




皇籍離脱から十数年余、一般兵から元帥へと昇り詰めた彼は。


母の実家を継ぎ、フォン・ナミュール=ルクセンブルク家を再興した。




そして、さらなる後―――




帝国宰相ヴィッテルスバッハ公ラインハルトと軍務尚書リウドルフィング侯ジークフリードに支えられ、新王朝の皇帝となる男である。




END.
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