道化師とワルツを

□面影
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デリーの地下の下水道で、手足を鎖で繋がれて力なく蹲る少女。
どうしてこんな所に少女がいるのか?理由は単純だった。遠い昔に亡くした恋人に似ていたからだ。
数か月前、友人達と井戸小屋に訪れた彼女は、其処を住み処とする“IT”に友人達が皆殺されてしまい、挙げ句の果てに自分は“IT”に捕まって、暗くて汚い下水道に監禁されてしまったのだ。



いつものように子供を食い殺したペニーワイズは井戸小屋に戻り、少女の様子を見る為に地下に潜った。
下水道に辿り着いたペニーワイズは、鎖に繋がれている少女の方に歩み寄り、優しく声を掛けた。
「ただ今、エリ。」
声を掛けるや否や少女はビクッと体を震わせて、恐る恐る顔を上げた。その表情は酷く怯えていて、顔色も悪かった。そんな少女の様子にペニーワイズはガッカリしたように眉を下げ、鼻で小さく溜め息を吐いた。一緒に暮らし始めてからもう何か月も経つのにちっとも懐いてくれないし、ろくに口も利いてくれない。食事を与えても殆ど食べてくれないし、此方がどんなに面白い話をしてあげてもちっとも笑ってくれない…。どんなに優しくしてあげても、どんなに好きだって聞かせても、彼女は全く応えてくれないのだ。

「エリ…。」
ペニーワイズが寂しそうな声で名前を呼ぶが、少女は返事をする事もなく、ただ俯いている。
「エリ、こっちを見て。」
こんなにすぐ近くいるのに全く自分を見てくれない少女にペニーワイズは悲しくなって、少女の肩を触れてお願いをする。すると、肩を触っただけなのに少女は大袈裟に体を震わせ、「ひっ…!」と声を漏らした。その表情は青く強張っており、小さな唇がわなわなと震えていた。
「エリ…。」
どうしてそんなに怖がっているのか。どうしてそんな目で見るのか。自分は何もしていないのに。ただ、自分を見て欲しいだけなのに…。

「(いい加減にしろよ、ペニーワイズ。)」
心の中にいるもう一人の自分が声を掛けた。
「(いつまでそんなガキを生かしているんだ。そいつはな、エリじゃないんだ。ちょっと顔が似ているだけなんだ。)」
「(な…何言ってるんだ!!この子はエリだよ。間違いないよ。)」
「(お前バカか。エリはとっくの昔に死んでるんだぞ。)」
…分かっている、本当は。この子はエリじゃなくて、エリによく似た赤の他人だって事を。本物のエリはずっと昔に病気で亡くなり、もうこの世にはいない事を…。
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