short
□Our sequel
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「そろそろ行きましょうか」
彼女は飲み終わったコーヒーカップを戻し口に置いた。
長い髪の毛を揺らしながら外へと出る。
「もう大学生だろ?髪の毛染めたりしないのか」
「みんなは染めてるけどね…。私はいいかなって。多分一番黒髪が似合うと思うんですよね」
「…毛先だけとか」
「それ可愛いかも。赤とかきっと黒に映えますよね」
にっこり笑って艶やかなバージンヘアを耳にかける。
彼女はどうしてこんな男の相手なんかしているのだろう、とふと思う。
よほど暇なのだろうか。
彼女が指定したレコード店は古臭い外観で、若者の好きな雰囲気とは程遠かった。
彼女は店に入るなりレコードのジャケットを見て目を輝かせていた。
「実はレコードプレイヤーまだ持ってないの。来週届く予定で」
彼女は照れ臭そうに笑った。
「なんでレコードなんかに興味もつんだ?今はもっといい音で何処でも聞けるだろ」
「うーん、なんて言うのかな」
彼女は綺麗な森がプリントされたジャケットを手に取って言った。
「どこでも聴ける、綺麗な音質もすごく素敵だし、私も実際スマホで音楽を聴くんですけど。いつだったか、音楽フェスのフリーマーケットでレコードが流れてて。ざらついた音とかがすごく好きだったんです。
古いものをわざわざ使うと言うよりは自分の持ってない、未知のものを試してみたいって言う感じなんですよね。」
そう独り言のようにつぶやくと、こちらに向き直ってまた笑顔を見せた。
ああ、この顔は知ってる。
新しいものを待ち望み、希望に満ち溢れている顔だ。
平和な世界でもこんな顔をするのかと、自然と自分の口角も上がった。