さやみるゆーり

□抱きしめたいけど
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海沿いにあるバス停。
手のひらを水平線と平行にして眺めてた。
あー、眩しい……。夏の日差しがトビウオみたいに青い海を跳ねてるみたいや。

次のバスが来るまで俺たちはまだ恋人…やんな。
もう少し、もう少しだけこのままでいさせてくれ。まだ想い出にしたくないから……。

彩「…バス遅いな。」

思ってもないことを言ってしまう。ほんとは来るなって思ってるのに。

美「そーやな〜
まぁ田舎やから仕方ないんちゃう?笑」

そうやって美優紀は屈託のない笑顔で笑う。この言葉を言ってしまったら、俺はその笑顔をもう見ることは出来ないだろう。
笑顔の君を抱きしめたいけど、寂しさに慣れよう。
君がいない未来はすぐに始まるんやから。
東京に行ってしまう美優紀を縛りたくなくて勝手に別れを選んだ。
こんなに愛せた人はもういないだろう。

美「あ、バス来た!」

ふぅ

彩「なぁ、美優紀……。俺たち別れよっか。」
美「……なんで?冗談やろ? 彩やめてや笑えんで」
彩「冗談やないねん
夢を叶えに東京に行く美優紀を俺っていう存在で縛りたくないねん」

運転手さんがバスに乗るか聞いてきたが美優紀が乗らないと答えた。

彩「次が最終やで」
美「……。私は別れたくない。
彩っていう存在で縛っててくれんの?涙」
彩「何言ってるん?
俺がいない美優紀の未来邪魔したくないねん。出会えたことまで後悔したくないから
一番素敵な恋だったっていつか言えるように…」
美「ぐすっ。ばか! 彩はいつも勝手に決める!
彩と出会って付き合ったことなんか後悔するわけないやんか!
なんで、そんなん、私の未来は私が決める!彩がいない未来なんて意味無いねん!お願いやから、私から離れんといて?」
彩「っ!! くそ」

俺は美優紀を抱きしめた。もう後戻りはできない。抱きしめたら思いが溢れる。我慢してたのに…。

彩「ごめん、美優紀。勝手ばっかごめんな。でも、これが最後のわがままや」

心配そうに俺を見上げる美優紀

彩「これからもずっと俺の彼女でいてください」
美「っ 当たり前や!
彩やないとあかんねん!」

陽は沈み闇が幕を引きながら、まっさらな明日の準備をする。
最終のバスに乗った美優紀を見送る。
一度は手放した君をもう二度と離さないために、この砂浜にこの記憶は置いていく。
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