短編

□憧れから失望へ、そして...
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この世の人とは思えないほど美しい人
ただ歩いてるだけなのに
その人から光が出ているかのように輝いていた

『 あの方が白石家の姫君だ
いずれ『刑軍』の長になられるお方
お前はあの方の手となり足となり
命をかけて尽くすんだ
いいな?飛鳥』






初めての出会いは神との対峙みたいだった




代々、処刑・暗殺を仕事としてきた下級貴族齋藤家
一族全てが刑軍に入り生涯を捧げる定め

強さこそが生きる価値の全てとされてきた

刑軍に入ることさえできないものは
ことごとく一族を追放された

私はその4代目
6人兄弟の6番目として生まれてきて
刑軍へと入った

刑軍ってのは
特殊部隊第一分隊
全五分隊ある特殊部隊の最高位のこと

任務は法に背いた同胞の処刑と暗殺
そして
ホロウと呼ばれるこの世のものではない
バケモノのようなものの駆逐

私以外の兄弟はみんな任務で死んでしまった
悲しみも確かにあったけど
それよりも彼らの力の無さが恥ずかしかった





彼女は、その圧倒的な白打の才で刑軍に君臨し続ける
白石家の二十二代目にして初めての女性当主

高貴にして華麗、そして恐ろしい程に強かった

私が目指すすべてを持っていると、そう感じた

ものすごく憧れた

この感情はもはや、憧れを超えて崇拝に近かった




飛「飛鳥、参りました。」
白「お、きたきた〜話は聞いてる?」
飛「はい
私、飛鳥はこれから
心身の全てを捧げて軍団長様をお守りし……」

あれから7年
私は統括軍団長直属の護衛軍に入った

白「ねぇ、軍団長様ってやめてよ〜
ものすごい堅苦しいじゃん
もっと砕けて呼んでいいよ!
例えばね、まいやんとか!」
飛「めっ…滅相もございません!
軍団長様にそのような…」

あぁ、なんて悲しそうな顔をするんですか
そんな可愛い顔されたら……

飛「そ、それなら
"まい様"とお呼びしてもよろしいでしょうか」
白「んーーーー
硬いなぁ、でも、まぁいいよ!
飛鳥の好きなように呼んで
私はね、飛鳥の力を見込んでここに呼んだの
呼び方なんて何でもいいんだ笑
期待してるよ、飛鳥」
飛「は、はい!」




迷いなんてない
ただ、嬉しかった
戦いの真っ只中でも
ただただ幸福だった

『この方の為に死のう』
そう、何度も何度も強く心に誓い続けた


ご飯を食べているとき
最後に食べようととっていたおかずを
よそ見している間に食べる可愛いまい様も

訓練や、任務に就いているときの
真剣な表情のかっこいいまい様も

私が髪の毛を切りすぎて
気にしてたときに
「私とおそろいだね」なんて
優しく頭を撫でて声をかけてくれたまい様も

どんなまい様も
私の全てをかけてお守りするべき人
そう、思っていた







別れはあまりにも突然だった


翌日上から伝えられたのは

『追放罪、松村沙友理の逃走幇助及び
その露見を恐れての失踪』
『それにより刑軍統括軍団長職から白石麻衣を
永久追放する』

という、不様極まりないものだった

それは、神のように敬愛した主君の
明らかな裏切りだった

飛「私はあなたに失望した。
あなたを憎み呪いさえした。
そして必ず、あなたを超える力を身につけ
私の手であなたを捕らえてやろうと誓った!
私は…あなたを許さない。白石麻衣!」

なぜあなたは何も言わないのですか?
ずっと、ずっとずっと
すべてをあなたに捧げていたのに
どうして……

飛「どうして、私を連れて行ってはくれなかったので
すか」
白「飛鳥には未来がある
それに飛鳥は才能があったから
軍団長を継いで欲しかったの」
飛「でも、どうして!」
白「飛鳥に迷惑はかけられないよ
あまりにも強い忠誠心は
ときに狂気に変わるから
もう、大丈夫でしょ?
私はもうどこにも行かないよ
飛鳥が望むことはなに?」

私が望むこと…

飛「私は、私はこれからもまい様といたい
今までの分一緒に過ごしてくれませんか」
白「それを飛鳥が望むなら」
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