BOOK:79 ぱろでぃ
□@ 大野建築事務所 〜 引き寄せた糸
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「んー!おいひー!!りょーすけ天才かもね!」
しばらく平謝りしたあと、お詫びに、と振る舞った料理。
すっかり時刻は昼頃だったので、腕によりをかけたランチを作った。
一人暮らしが長くなり、自然と料理のスキルは上がったと思う。
勉強以外に関しては、比較的なんでも器用にできるタイプだから。
「…知念は?料理しないの?」
あまりに知念が「美味しい美味しい」と嬉しそうに言ってくれるものだから、調子に乗って「だったら毎日食いに来い」なんて言ってしまいそうで。
誤魔化すようにした質問に知念は「僕はぜーんぜん!」と首を振る。
俺たちの実家からは少し距離のある会社のあるこの街。
きっと一人暮らしなんだろうから、もしかしたら、知念にとって久々の手料理?
…もしそうだったら。本当に毎日飯食いに来ればいいのに。いくらでも知念の好きな食べ物、用意するのに。
「…あ、外めっちゃ晴れてるな」
溢れ出しそうな言葉と気持ちをなんとかしまいこんで。
これ以上、笑う知念のことを見ていたら危ないと、立ち上がって窓を見た。
「本当だ〜!行楽日和だねぇ」
チラリ、振り返った先にいた知念は、陽の光に気持ちよさそうに笑っていて。
そんな些細な瞬間にも心が揺さぶられて、慌てて目をそらすのだった。
「ごちそうさまでした!本当に美味しかった!」
作りすぎたかと思ったパスタとサラダ。
簡単なものだったのに、知念は何度も美味しいと言いながら食べきってくれた。
「そんな美味しそうに食べてくれると、作りがいあるよ」
そんな笑顔が見られるなら、こんな料理、いくらでも作るのに。
って、本音を隠して笑いかければ、知念も笑顔だけ返してくれた。
「…あ、そうだ。
ごめんね、昨日はご迷惑を…。
ゆーてぃーに聞いた。」
その直後、知念からのそんな言葉に、思わず動きが止まる。
…聞いたって、何を?
……どこまで聞いた?
ドクドクと嫌な音でなる心臓。
知念はそんな俺の様子をチラッと横目で見て。
「ここまで運んでくれたんでしょ?
よかったよ、居酒屋に捨てられてかなくて」
食器をシンクに置きながら言われた言葉に少しホッとして。少し痛くなった。
宝物みたく大切に連れてきた、なんて言われてなくてよかったけど。
‘居酒屋に捨ててくる’なんて。
…そんな選択肢が知念の中であり得たことが、完全に俺との距離を‘友達’のポジションに置いているんだなって。そう気づかされて。…少し痛いんだ。