BOOK:79 ぱろでぃ

□@ 大野建築事務所 〜 指輪の意味
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電車の中、指輪を外したらしいその左手を見て「…ペアリング買おうか」って言うと、携帯をいじっていた目がフワリと上がる。
「えぇー。いいよ。」
興味なさげな返事に、結構、本気でショックを受けて言葉を失ってしまう。

…アイツからの指輪はつけてたのに、俺とのペアリングは嫌って、どういう…。

我ながら、さっきの健人に対する強気な態度はどこへやら。何とも悲しい気持ちで知念を見ると、どんな表情をしてしまっているのか、俺の顔を見て驚いたような顔をした後、携帯をしまいながら「あ、別にお揃いが嫌とかじゃないよ」って笑った。

「…わかってるよ」
いや、わかってなかったけど。
結構本気でショックだったけど。

チラッとその顔を見ると、まっすぐ俺を見ていた知念とバッチリ目が合ってしまった。

「あの指輪は、お守りだからつけてただけだし。もともと、アクセサリーとかつけるの嫌なんだよ」

…俺に会うためのお守りってわかってるけど。めちゃくちゃ他の思いが入っているものだろう。
それはつけてたのに、俺とのペアリングは嫌だって、それって…。

眉を寄せて唇を突き出して。
思いっきり不機嫌な顔をしてやれば「…それに」って、何やら顔をしかめた知念は、少し言いづらそうに口を開いた。

「…これ以上、お願いごとなんて、無いもん。涼介だけ居ればいい」

消え入るような声に、胸がドキンと大きく高鳴って。


…あぁ、俺は多分、掌の上でコロコロ転がされているのだろう。
知念の一言で一喜一憂。
ほら、知念は「…機嫌、直った?」なんてクスクス笑ってるし。

まぁ、でも。
それでも構わないって思ってしまうほど、今、俺は幸せだ。


裕翔が言ってた「やまは前途多難だねぇ」ってそんな言葉。
恐らく一つ目の“難”はこれだろう。

これからいくつ、こんなことが待ち受けているのかわからないけど。

「…俺もだよ。知念さえ、いてくれたらそれでいい。」

究極的には、そうなんだ。
知念だけいてくれるなら、その“難”、いくらでも受けて立とうじゃないか。


嬉しそうに笑った知念に、俺は、出来るだけ優しく笑いかけたんだ。


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