BOOK:79 ぱろでぃ

□@ 大野建築事務所 〜 指輪の意味
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「あ、コンビニ寄っていい?」

一刻も早く室内に行きたい俺に対して、知念は冷静で。
のんびりコンビニに入って「お菓子とかいる?」なんて聞いてくる。

…あれ?
これは友達の距離感?

さっき、奇跡みたいな時間を過ごした俺はフワフワ夢見心地でよくわかってない。
…あ。そういえば、明確な話は何もしていない。
付き合ってくれ、とか言えてないけど……。
そしたらこれって、どういう関係性になるんだ?

知念は、俺の恋人ってことで…。

良いのかな?って、そう思ったときに、目に入る。
コンビニで飲み物を買おうとしているその薬指には、確かに指輪が輝いている。

「…涼介は好きだけど、恋人いるんだよねぇ。
だから、涼介は愛人でどう?」

そんなこと言われたら、俺。
…きっと…拒否できない。

拒否できないのに苦しいから最悪だ。

ずーんと落ち込んでしまえば「涼介?行こ」って笑う知念。
それだけで、ちょっとテンションは上昇したけど、同時にこんなかわいい知念のこと、そりゃ周りが放っとかなかったよなって思って。

なんで俺は…。
空白の約10年間を悔やんでも悔やみきれない…。

「…涼介?」「え?」

自然と上の空だ。隣に知念がいるのに。
「なんかボーッとしてる?体調悪い?もう帰る?」

心配そうな顔を浮かべてくれる知念に慌てて首を振ったけど。

もしかしたら、今日は帰ったほうがいいのかな。
ひとまず落ち着くべきなのかもしれない…。

どんどんと顔が曇る俺のことを、まっすぐに見る知念は息を吸って、一言。

「僕は、もうちょっと一緒にいたい」

ドキンドキンと、どうしようもなく熱が昂ぶって。
掠れる声で「俺も」って言うと、その手を掴んだ。

ホッとしたような笑った知念は、ゆっくり、歩き出した。





「ここだよ」それからポツリポツリ。
なんとか言葉を交わしながらたどり着いた知念の家は、随分とおしゃれな外観のマンションで。
聞けば、うちの所長のデザインだと言う。

あんなに幼かった知念がここに住んでるのかって思うと
なんだかノスタルジックな気分になる。

と、同時に。

「…散らかってるけど」って、定型文通りな言葉とともに招かれた家は、知念の香りが充満していて。その空間に否応無く熱は昂ぶってしまう。
「テキトーに座ってね」なんて言葉をかけられても、うまく座れないほどだ。

それこそ、始めて彼女の家にあがる中坊みたいな。
いや、それよりも酷い。
熱は昂って、胸は大きく音をたてている。
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