BOOK:79 ぱろでぃ

□@ 大野建築事務所 〜 引き寄せた糸
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知念は笑って言った。

「…やっぱり、涼介は謝るんだね」

って。



「…え?」


言った後気がついた。
それはいつか…。
…あの、別れの時にも、確かに俺は謝っていたかもしれない。

「…本当、だな」

苦笑を返すと、知念はにっこり笑った。

「…あの時、僕、後悔したんだ」

真っすぐに目を見て。
今までになく、真剣な目が、俺を見た。

「…次に会ったときに、言えばいいって。
今度でいいやって。

だけど…、会えなくなって。

言えばよかったって、後悔した。
ちゃんと、僕も、好きだって。

あの時に、言えばよかったって。
スゴイ後悔したんだ。」

嘘みたいな。
夢みたいな言葉に、本当に、時が止まる。


「好きだよ。
ずっと好きだったよ、涼介が。」


ニコッて笑いかけられれば、
それは、まるで夢のようで。

上手く息も吸い込めないほどで。


「…えっと」

頭もよく回らない。
オドオドしてしまえば。


知念はクスリと笑って言った。
「とりあえずさ、チューしていい?」って。


カッコ悪いぐらい硬直する俺に、知念はクスリと笑って、優しいキスをくれたんだけど、そしたら、治まっていたはずの熱が昂ってしまって。

一度、離れて、ニッコリ笑ったその唇を、余裕なく追いかけて。
後頭部に手をまわして、酸素を求めて開いた隙間から舌をねじ込んだ。

もちろん知念は、抵抗してきて。
「…ちょ、ここ外だから!」って言葉と共に、思いっきり押し返されてしまった。

光る唇は、やっぱり名残惜しくて。
未練がましく「…外じゃなかったらいい?」って、おでこだけくっつけて尋ねれば、知念は苦笑して「僕んち来る?」といってくれたんだ。





それから知った。
実は知念の家も近所だということ。

そりゃ、駅まで道もわかるはずだよ。

そんなこと知らなかった俺は「早く言えよ」って軽く睨もうと思ったのに。
「涼介のお家覚えちゃった〜」って嬉しそうに笑われたら、もうそれだけで何も言えなくなってしまう。




きっと、まだまだ問題は山積。
お互いが知らないお互いのこともたくさんあるはずだ。

…それでも。
知念が言ってくれたから。

これからは、僕もいるから。″

って。
その言葉は、どんな応援や励ましよりも心強い。

知念がいてくれるなら。
俺は、もっと強くいられるから。

「…知念」「んー?」

呼べば振り返ってくれる距離に、君がいるなら
俺は、きっと、無敵だ。

「…なんでもない」

だから、これから一つずつ。
絡まった糸を解いていこう。

…例えば。
その途中で、もしも俺らの糸が途切れていても

俺は何度だって結び直すから。

だから。
これから、どうか、隣で。


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