BOOK:79 ぱろでぃ
□@ 大野建築事務所 〜 引き寄せた糸
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「…り………け…」
真っ暗な世界、聞こえた声。
「…んん……」
これは…確か…。
「……りょーすけー」
目を開くと、そこには、知念がいた。
あぁ、また、この夢か。
俺の記憶の中いる中学時代よりも、妙にリアルに成長した知念は、それでもやっぱり可愛いことに変わりなくて。
それならば、と、手を伸ばして、その身体を思いっきり引き寄せた。
妙に固い感触。妙な重さに苦笑する。あぁ、疲れてんだなって。
いつも疲れている時に見る夢。
また知念に会えるって、そんな夢。
朝起きると、もちろん知念は居なくって。
枕だったり、布団だったり。
…人、だったり、を抱きしめてるんだけど。
それでも、想像だとしても俺は癒される。
知念がどこかで元気にやってるだって思うだけで…
「……!!!」
…ん?
「…痛い痛い!」
妙にリアルな重み。
声もまるで知念。
…まるで……。
「っあ!!」
バッチリ目を開けば、
目を白黒させる知念が腕の中にいて。
「ご、ごめん!!」
慌てて腕を外したけど、知念はグッタリとハァハァ息を吐いていた。
…そうだった!
俺は昨日、知念と再会して。
……それで、それで
「…あれ!?裕翔は!?」
…あれは夢か!?
「…ゆーてぃーは…始発で……」
…あ、違うか、全部現実か。
そしてパッと視線を移す。
その先には、かなり近い位置に涙目になっている知念がいて。
飛び起きて、その傍に正座した。
…やばい。
多分、抱き寄せた。
しかも、思いっきり…。
寝ぼけていたくせに、妙にその温度とか匂いとか感触を覚えてて。
その余韻に、こんな時なのにドギマギする。
高まる熱をどうしたものかと思っていたその時、知念から「僕を殺す気!?」と一言。
どうやら息が整ってきたらしい。
その声に頭から冷や水をかけられたみたいにシャンとして、「ほんっと、ごめん!寝ぼけてて…」と、そのまま、何度も頭を下げた。
傍で知念がゆっくりと起き上がった気配がして、恐る恐る顔を上げると、その顔は苦笑しながらこちらを見ていた。
「…随分と刺激的な朝になったよ」
首のあたりを気にする知念に、もう一度「ごめん…」と零せば、知念は「全く。誰と勘違いしたんだか。」と、小さく笑うのだった。
気を使って言ってくれたであろう、そんな言葉に、胸が痛くなる。
…勘違いなんて、してないよ。
そんなことを言ってしまえば困らせるだろう。
きっと、友達としての距離感を、俺が間違わないように知念がくれた言葉。
それを無下にするような言葉を、俺が言えるわけないんだ。
…だけど。
冗談で乗るような強さは持ち合わせていなくて。ただただ、俺はまた「ごめん」とこぼすのだった。