BOOK:79 ぱろでぃ
□@ 大野建築事務所〜10年ごしのただいま
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「…久しぶり」
そう言って笑えば、知念がなぜかホッとしたような顔をした。
「久しぶり。」
身長は相変わらず小さいけど。
それでも顔つきは男らしくなった気がするし、声も心なしか低い。
…だけど。
「よかったぁ〜!やっぱり涼介だったんだ?
山田涼介って、まぁ、いなくはない名前だし、朝見た時なんかすごーく変な顔だったから、もしかしたら別人かなぁ〜なんて思ってさ!」
早口でそう言った知念は、確かにあの知念で。
胸が苦しくて。
嬉しくて、愛しくて。
いろんな気持ちがごちゃまぜになって、泣きそうになる。
「変な顔ってなんだよ」
それを悟られたくなくて、ちょっとぶっきらぼうに返せば、知念はクスクス笑って「ごめん、ごめん」って返した。
「っあ、ちょっとまって。」
取り出したスマホで何かメッセージを打ち込んだあと、
「そりゃびっくりするよね。
僕は事前に社員名簿見せてもらってたから、もしかしたら…って思ってたんだけど」
なんて。
駅の方向へ歩き出しながら、知念が器用に話した。
俺も慌てて、その隣に並んだけど、思わず苦笑してしまった。
「…そう、だったんだ。俺、驚きすぎて…」
いつも、こうだった。
先に歩き出すのは、いつも、知念だった。
俺は、隣に並ぶためにいつも焦っていて。
「…だね。すんごい顔になってたよ」
だから、こうやって零される笑顔を、
何度も見逃してきた気がする。
「っあ!お前、朝笑っただろ!」
「あはは!バレてた?ごめん、ごめん!」
だけど。今度は間違えない。絶対に。
ひとつずつ。
間違えないように丁寧に。
「…知念」
「…ん?」
当時の俺は、気づかなかった。
わかってなかった。
こうやって名前を呼べば。
知念はちゃんと待ってくれること。
こちらを、見てくれること。
楽しかった思い出たちを何度も何度も回顧するうちに、気づいたんだ。
いつだって、知念は俺を見ていてくれたことに。
だから。
焦らないで、伝えるから。
「…知念、ただいま」
あの日、お前がくれた
「いってらっしゃい」への、返事を。