BOOK:79 りある

□☆バカな俺なんで
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あ、知念、明日、昼からじゃん、

改めてスケジュールを見たら気がついたそんな事実。
確か昨日の俺が見た時点では午前中もなんか入ってたのに。
急遽なくなったのかな。

まぁ、いいや。
とりあえず俺も午後からだし……飯でも…って思いながら楽屋に戻ると。


「あれ?知念は?」


見当たらない姿。
まだ戻ってきてないのかな?
そしたらメッセージでも……って、思ったのに。

「あぁ、なんか、大ちゃんとご飯行ったよ」
「えっ……」

裕翔の声に微かに言葉を失う。
え、なんで?だって俺、この前誕生日だったのに。
俺のお祝い、まだしてないのに?

なのに?ご飯?大ちゃんと?

「……なんで?」

疑問が口をつく。
だってさ、あいつ、俺の誕生日プレゼントも大ちゃんと買いに行ってさ。え?最近仲よすぎない?

「……なんでって、知らないけど」

ちょっと眉を寄せた裕翔を横目に、楽屋をフラフラ出る。

あのさ、まず、言いたいんだけど。
普通、恋人の誕生日プレゼント、他のやつと買いに行く?え、なんなんだよ!
しかも!今日も飯!?俺も明日は午後からって予定見たらわかるだろ?なのに??
つーか、大体さ!!俺が誘った時はかるーく断るくせに、俺が断ると寂しそうな顔して“……そっか”って!なんだよそれ!!
いや、それが可愛いけどもね!!でも!なんかそれってちがくねぇか!?
今更すぎるが、普通のカップルなら、誘う分量って一緒じゃね!?
俺らは、当たり前のように俺が9割だけどさ!!
なんで俺ばっかり!!俺だって断られた時寂しいのにさ!あいつ普通にスルーするよな!?こっちは断る度、罪悪感と虚無感と後悔と焦りと、あと、それから……いや!まぁ、とにかく色々!!!それのせいで気が気じゃなくなるのに!!普通は、あれを俺が感じる必要なんてないんじゃないか!?

あいつは俺という存在への感謝の心が薄くなってきている!!気がする!

だんだん苛立ってきて。
……あぁ、もう、あれだ。俺からは絶対に連絡してやんねぇからな。って決意を固めてスマホを見た。

…………その決意を、知らせる内容は送ってもいいかな。

ってスマホを持って文章を打とうとして、手を止める。
いや…これは、もはや、連絡しているか?

……しない。してやるものか。俺からは、絶対に。

……ただ、しかし。
俺が暇だと言うことを伝える必要はあるよな。

どうやって伝えようかと、考えること、しばらく。
家に着いた俺が思いついた名案は。



【大ちゃん、今暇?ゲームしよ】



そう。食事相手の大ちゃんにメールをする、という間接技。

……さぁ、あとはゲームをして、知念が【りょーすけ、暇なの?】って言ってくるのを待つのみだ。

ゲームもできて、知念にも会えて、一石二鳥の作戦じゃないか。


……って。
ゲームをスタートすること、数時間。


……来ない。
知念が、来ない。つっーか、そもそも既読が付かねぇ。

何やってんだよ有岡大貴。
いっつもスマホいじいじしてるくせに。そんなに誰からメッセージ来たんだよ!ってぐらい、いつも返信してるくせに。

スマホが気になってゲームにも集中できねぇし。
あぁ!!もういい!電話……って伸びた手を止めて。

とりあえず、深呼吸。
………よし、風呂でも入ろう。

知ってる。俺は、わかってる。
ここで電話したら、永遠に俺は知念にナメられる。

すでに結構、ナメられてんのに。

目指すは亭主関白なんだ。
これから一生、知念に尻に敷かれるなんてごめんだ。

よし。
ゆっくり風呂に入ろう。


誕生日プレゼントでスタッフさんにもらった入浴剤を投入すると、お湯をためる。……おぉ、泡ぶく…すげぇ……。

なんか……ちょっとウケるな。知念に送ってやろ。



ーーカシャッーー

【入浴剤入れたらヤバくなったわ😂✨笑】



「って!!!違う!!やらない!!!!送らねぇよ!」

スマホをバスタオルに投げると、荒々しく浴室のドアを閉める。……あぶねぇ。

なんって恐ろしき習慣。

武者震いしてから、ソファに投げやりにかけていたシャツをハンガーにかけ直した。

これは、知念が誕生日プレゼントにくれたシャツ。
それこそ?俺の恋人は有岡大貴と?買いに行ったわけだけど?

……でもまぁ、あれか。
有岡大貴と一緒にいても、俺のこと考えてんのか。

……それってちょっと…なんか、いいよな……。



そーっと。
浴室に戻って、スマホを見る。

未だに既読は付かない。
もちろん、知念からの着信やメッセージもない。



「……ちねん、」

……次に会えるのは、いつかな。
明日?……は、あぁ、知念、結構遅くまでだ。
明後日は……あぁ、俺がロケか……。

じゃあ……。

もっと、先?



「あぁ!もう!!」


掴んだスマホ。
電話はやっぱり癪だから、とりあえず、メッセージを出した。



【俺も明日、午後からだけど?】


今の俺の精一杯の譲歩だ。
これ以上の……いや、ちょっと素っ気なさすぎるか……。


【俺も明日午後からなんだけど、家来れない?✨】


絵文字をハートにしなかったのが、俺の意思表示だ。
…っよし。

送ったメッセージ。
ちょうどお風呂が沸いたと言ったから、急いで風呂に向かう。

出てきて……知念から返事が来てたら…そしたら……。

考えながら、最悪、まぁ、迎えに行こうってことで、慌てて風呂に入って。
泡風呂なんて堪能することもなく、出ると……「っあ!」届いたメッセージ。


【行っちゃっていいの?】

そんな言葉に、たちまち、涙が出そうになった。


“誕生日、そんなに嫌だったの?そっか、ごめんね、なんか”


この前、知念がそう言った。誕生日の日、本当は家でゲームしてたんだって。薮ちゃん伝いに知ったらしくて。
知念は全然気にしてなさそうに“だったら言ってよー。嘘なんてつかないでさ”って笑ってたけど…なぁ、知念。ごめん。俺、間違えてたな。

きっと、本当はめちゃくちゃ気にしてたんだな。
いや…でもさ、言い訳、させて。本当は、めっちゃくちゃ考えてたんだ。

“誕生日、知念に会えるのは嬉しいよ。
だけど本当に、飲むのは辛くてさ……。だから、出来れば二人が良かったんだけど。ほら。そうすると、あいつら騒ぎそうだから。”

って、言い訳、すっげぇ考えてたの。
頭の中で何度もシミュレーションしたんだけど、お前…怒んないし、寂しそうな顔もしないから…だから…言いそびれてさ。
……ごめん。

【もちろん!!知念なら、いつでも大歓迎だよ!💓】って急いで返してから、大きく息を吸う。

…ごめん、知念。

感謝を忘れていたのは、俺の方で。
寂しそうな顔、本当にしたいときは、してなかったんだよな。

「はぁ」

大きくため息をつくと、知念から“了解”って書かれた変なスタンプ一つ。
くすっと笑うと俺もスタンプを返した。すぐに既読はついたけど、何も帰ってこなさそうだから、そっとスマホを置いた。

…何時につくかな。
……っあ、家に、なんかあったかな。

髪を乾かすのもそこそこに冷蔵庫を開く。
……あぁ、これ、今度、知念が来た時にあげようと思ったやつ。あぁ、これも、これも。

でも、飯食って来てんのか。
泊まってくれるかな。そしたら朝にでも……。


って思ってから、苦笑した。

…ごめんな、知念。

……ずっと。付き合う前から、それから…今でも、ずっと。
俺は…お前のやさしさに甘えてばかりで。

相変わらず。
俺はめちゃくちゃ馬鹿でさ。

お前のこと、不意に傷つけてるかな。

…ごめん、本当に。

バタン、と。
わざとらしく音を立てて冷蔵庫を閉めてからもう一度、スマホを開く。



【迎えに行きましょうか?】

送ってから、少し考えて。

【早く会いたいんで。】

って続けたら【もう着くよ】って返事が来たから。
簡単に気持ちが盛り上がった。



知念が家に着いたら、一番に話そう。
誕生日のこと、ごめんね、って。
本当は、知念と一緒に居たいよ?居たいに決まってんじゃん。俺がお前に会いたくない日なんてないんだから。

…なんだけど……えっと…。




―――ガチャガチャ―




「りょーすけー!」

っあ、来た!
急いで玄関に駆け寄ると…。

「っふ、お前…何やってんだよ」
「へへへ。奥様のご機嫌取る、旦那さん、みたいな?」

なんだよそれ。って言いながら近寄る愛しい人の頭にはネクタイがまかれて。
手には小包。

酔っ払いのイメージ図みたいだ。
笑って手から小包を受け取ると一瞬触れた体温が少し冷たかった。

「…お前、飲んでこなかったの?」
「ちょっと飲んだよ?」
「…その割に……「ねぇ、りょーすけ?」

ん?って顔を上げたら、ちょっとだけ、気まずそうな顔。
どうした?っていうより早く「ごめんね?」って苦い笑顔。

「…え?何が?」
「ほら。お誕生日のやつ。そんな嫌だったって知らなくてさ。毎年しつこくやっちゃってたから…一応、謝っといたほうが…いいかなって…」

うかがうような目に。いろいろ言いたかったのに。
「…っ」一瞬、触れた唇。そのあとで「よしっ!これで、もう許してね?ぜーんぶ!帳消し―」って笑った人は。


「ねぇー、お風呂入っていい?って、え?一人で泡風呂してたの?」

っふ。って、小さく笑って動き出す。

「そうそう、スタッフさんに貰ってさ。思ったより泡やばくてびっくりしたわ」
「すごいね」
「ほら、これ溜めてる時の様子」
「うわー、すごー!」
「絶対、明日掃除大変だわ…」
「確かにね」

俺に、笑ったその人は…。

「手伝ってよ…明日、掃除…多分、夜するけど……」
「えぇー、やだよ」

「…そっか」
「掃除はしないで、ご飯を食べてるので、明日はおいしいご飯作っておいてね?腹ペコで来るから」

笑ってくれた、その人は。
俺の世界一、大切な人。一生、好きな人。

「任せろ。今日は?もう腹減ってねぇの?」

…俺はお前に“ごめんね”を言えなかったけど。

「うん、おなかすいてないー。それより、お風呂…」
「はいはい。さっき溜めたばっかだけど、冷たくなってねぇかな…」
「ね、りょーすけ」
「ん?」


「大好き」


…そんな言葉に。
やっと、普通の日常が戻ってきた気がした。
もう“ごめんね”なんて、言わなくていいって、知念か言ってる気がしたんだ。



「…な、わりにお前は大ちゃんと仲良くしてるけどな」
「そりゃ大貴のことは超大好きだからねー」
「おいっ!」
「ふふふー」

ちらっと見えた横顔が楽しそうで、こっちまで笑う。
これは、多分、はたから見たら、なんでもない、ふっつーの話。日常。なんでもないこと。…だけど。

「ああー、もう明日も飯作ってやんねぇ」
「えぇー」
「はい、じゃあ、大ちゃんと俺どっちが好き?」
「うーん、いのちゃん?」
「おいっ!お前、このやろう」
「イタイイタイ!」


俺からしたら、たまらなく、幸せな日常なんだ。


「もー、痛いよ」
「……ごめんね。ごめん、知念」
「ふふふ、許してあげるー!」





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