BOOK:79 りある

□Bこんぺいとう
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cn side

一緒なら。
それで構わないと思っていた。
一緒に居られるのなら。
どんな形でも、その隣に居られるのなら。

その頃の僕にあったのは、たったひとつ。
“好きだ”ってまん丸で優しい気持ちだけだった気がする。


「…ちねん」

短い息を吐きながら溢された、かすれた声。
その額に浮かんだ汗に手を伸ばした。

「……うん、いいよ」

綺麗な顔が好きだ。
筋肉のついたこの身体も。
そこから発される音も、
その中いっぱいに詰まった優しさも。

全部が、大好きだ。

だから、その目元に溜まった雫を拾って。
それから、ゆっくりと頭に手をまわして引き寄せた。

器用にも揺れながら触れた唇。

「………りょすけ、はさ…」

背中にまわした腕。
離れていかないで欲しくて力を籠める。

「……好きに、なってくれる人と、付き合えば、いいのに」

途切れ途切れ、発した言葉に動きが止まって、その目が寂し気に僕を見るから、僕は慌てて目をそらした。
視線の先には、幸せのおすそ分けが入った紙袋。
つまりは、結婚式の引出物。
送り主は涼介の元カノだって言っていた。


「……俺は…」

僕の視線に気づいたようで、言葉を止めて。
掠れた声、息を飲んだように動いた喉仏に苦しくなった。

本当は、知ってる。
今までの涼介の彼女だって、涼介のことが大好きだったってことぐらい。

だけど、それでも別れてしまうのは。
きっと想いが足りないからでしょう?

僕だったら、そんなこと絶対ないのに。
どこまでも好きでいるのに。
どんなことだって受け入れるのに。

…ほら、今みたいに。

そんな僕の浅ましい思考を止めたのは、
「……自分が好きになった人と付き合いたい」
悲しそうに笑う涼介のそんな言葉と、
再開された痛いほどの快感だった。




初めてこうやって身体を重ねたのはいつだったか。

交友関係をも知り尽くしている僕等は、お互いの恋愛事情も筒抜けで。

涼介が誰かと付き合って誰かと別れたって。
そんな話を聞いては、グラグラ心を揺らしていた僕は、
確かその時も、どこかから涼介が誰かと別れたって話を聞いて、その家に向かっていたんだ。

扉の向こう、リビングで一人座っていた涼介が、僕の突然の訪問にとても驚いていたのを覚えている。
それから、悲しそうに僕を見て“知念、寂しい”って、そう言ったことも。

“僕が、紛らわしてあげる”ってキスをしたあの時。
僕は、この人のためなら、この人と一緒に居られるのなら、どんな形でも構わないと確かに思ったんだ。
それから涼介は、たまに僕を呼ぶようになった“寂しい”と。



「……はぁっ、」
お互いの声にならない息を、
僕の方は、“好き”って言葉をも飲み込んで。

吐き出すことが許されたのは、酷く混濁した欲だけだった。





「……んん…」

ゆっくりと瞼を上げると、そこにあったのは大好きな人の姿。

「あ、おはよ、知念」「おはよ、涼介」

こうやって僕たちは、朝を迎えれば、ただの友人に戻る。

…いや、違う。
きっと、涼介にとっては、ずっと僕は変わらない。
物わかりのいい、親友で。

「…晴れてるし、どっか出掛ける?」

だから昨日、僕のことを辿ってくれたはずの唇が、当たり前に優しい親友としての言葉を放つんだ。

「うーん、そうだね」

だから僕も。
ただの甘えん坊で物わかりのいい親友に戻って笑う。

「…金平糖?」
リビングのソファに腰掛けると、テーブルの上、昨日はなかったはずのパステルカラーを見つけて。

「あぁ、そうそう。」
やわらかく笑う涼介が「はい」って、当たり前のように、僕の口に一粒押し込んだ。

その瞬間、何故だか無償に泣きたくなった。


名前を呼んでもらえたらそれだけでよかったはずなのに。
キスが出来るだけで幸せだったのに。

甘くて、優しい。
ただ好きって、それだけのはずだったのに。

いつからか、まん丸だった気持ちがトゲトゲを持った。

“僕を、選んでくれたらいいのに。”

そんな、欲がむくむくと膨らんで。
心はいびつな形に膨れたんだ。

まるで、この金平糖みたいに。

こんなの、おかしい。
こんな関係は、もうやめよう。

また、まん丸な優しい気持ちに戻りたい。
それが出来ないなら、全部溶かして消してしまおう。


…だけど、口の中、金平糖は全然溶けてくれなくって。
いっそ、かみ砕こうとしたのに、うまく力が入らなかった。
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