BOOK:79 りある

□Aモノホンの恋
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「えー!お前またー!?」

大ちゃんのデカい声に顔をしかめて耳を塞ぐ。

「うるせぇな」
「いやいやいや!早いだろー!えー!まじかよー!
あ、いのちゃん!いのちゃん!!山田また別れたって!
おいちょっと高木からなんか言ってやれよー!」

一瞬で広がる話に苦笑しつつ、視線を流すと、裕翔の隣でニッコリ笑う知念の姿を見つけた。

“また?”

そうやって動いた口に小さく「……うっせ」って返すと、
クスクス笑う姿を横目に立ち上がって廊下に出る。

「早いねー」そんな言葉とともに、やっぱり現れた知念のこと
「うるせぇな」って睨んでやったのに、
ニコって返された笑顔に結局こっちも笑ってしまった。

「年々早くなってるんじゃない?」
「いや、今回は案外続いたって。」
「あ、半年続いたんだっけ?」
「……いや、ギリ5ヶ月」
「ダメじゃん」

ケタケタ笑う知念に身勝手な言葉を零しそうになって、
慌てて違う言葉で置き換えた。

「……ずっと独り身のお前よりはマシだろ」
「えー、そうかなぁー」

フワフワ笑う横顔を今度は思いっきり睨んでやった。

……大体。誰のせいでこんなことなってると思ってんだよ。

昔から彼女が出来ても長く続かなかった。
その理由の1つ……というか、大部分が、知念なんだ。

知念は、そこそこモテる癖に誰とも付き合おうとしなくて。
つまり俺が遊びに誘えば大概はオッケーの返事。

それが分かっていれば俺は、知念を誘ってしまう。
だって、一緒にいてホッとするのも楽しいのも癒されるのも、全部知念なんだから。

“本当に私のこと好き?”“涼介の気持ちわかんない”

何回もかけられた同じ言葉。
その度に“お前が一番だよ”“好きだよ”って答えるけど、どんどん面倒になってきて、愛想を尽かされる頃には、大概、こっちも、どうでも良くなっている。

「僕は一途ですから」
そう言ってクスクス笑う知念から目をそらした。

“彼女、作んねぇの?”知念にそうやって聞くといつもはぐらかされるけど、しつこくしつこく聞いてなんとか聞き出した。

“好きな人がいるの”って言葉。
一体誰なのか気になって、やっぱり何億回も聞いたけど、絶対に教えてくれなくて。
いつも、“これ以上聞くならもう二度と口効かない”と言われて引き下がる。

実のところ。
未だに初めて付き合った彼女を引きずっているのかも。
なんて俺は思っている。
だとしたら、申し訳ないことをしたのは俺なんだ。

高校の時。
ちょうど知念と俺は同時期に告白をされた。
告白してきてくれた子は可愛いし、知念に告白した子と親友同士だったから「ちょうどいいじゃん!」なんて俺が言って、乗り気じゃなかった知念にも「付き合ってみろ」って説得したんだ。

ダブルデートしたり、4人で下校したり、恋愛相談と称して照れる知念をからかったり。
とにかく楽しくて、毎日がキラキラと輝いて、これが恋かって感動したのを覚えてる。

だけど、そんな日は長く続かなくって。

“いつもダブルデートは嫌だ”とか“もっと電話したい”とか。

そんなことを言い出すようになった彼女のこと、面倒になってきて。一方で、知念が楽しそうに彼女と過ごしてるのを見るとイライラした。

ついに、喧嘩が絶えなくなった俺らが別れた後、知念の彼女のことは考えずに、知念を遊びに誘いまくっているうちに、気づけば知念も別れていた。

知念と彼女は、仲良さそうだったし。
別れたとしたら、確実に俺が理由なんだと思う。

そして、俺の知る限り、それから知念は彼女を作っていない。

絶対、謝ったりはしない。
だけど申し訳ないってちょっとは思ってる。

「…好きな人ねぇ」

なんだよ、お前。
最初は全然好きじゃなさそうだったくせに。
“好きじゃないのに付き合うなんて悪いもん”そう言ってたくせに。付き合ってるうちに本気になってた、みたいなやつ?
何年も何年も引きずるほど好きになってたのかよ。

俺の予想では。
知念の元カノは、別れてからも知念のことを好きだった。
それは、多分、今も。
この前の同窓会でも、よく知念のことを見ていたし、その表情はなんとも切なげだったから。

どういう理由で別れたかなんて聞かなかったから、どちらが振ったのか知らないけど。もしも知念が言えば簡単に付き合ってしまうだろうと思う。

知念に彼女が出来て。
俺が遊びに誘っても、断るようになったら。
そしたら、きっと俺は彼女を優先してあげれるはずだ。

だから、早く知念は恋人を作ればいい。
そうやって、思うはずなのに。

「……何年も、同じ人なんて考えらんねぇ」

知念が何年も同じ人を思い続けているのは、なんだか気分が悪かった。なんだか……。
いや、多分。
自分が出来ないこと、知念ができるのに腹が立ったんだ。

「そう?」「そうだよ」

顔をしかめてやると、知念はクスクスと笑った。

「……涼介はお子ちゃまだね」「はぁ?」

睨んだ先の知念が、確かにやけに大人びた表情をするから悔しくなる。

「僕は、一生好きでいられるよ。」

しかも、真っ直ぐこっちを見ての宣言に、苛立ちが募る。

「相手が好きになってくれなくても?」「うん」
「……はっ、バカらし」

そんなんおかしいだろう。付き合わないのに好きなんて。

だってそもそも、誰かのこと好きになるって、付き合うってことだろ?
付き合って、いろんなことして。それにドキドキして。
それが好きになるってことだろ。

それを、ずっと片思いでいいって。
「そんなのおかしいだろ」
語気を強くして言えば、知念は驚いたような顔をする。

「……涼介?」

真っ直ぐな目を見ると、より一層、苛立ちが募る。

ずっと誰かのこと好きで。そいつが知念の中でずっと一番で。
そんなのおかしいだろ。

さっさと付き合ってみりゃいいのに。
そしたら、きっといつか終わりが来るはずなのに。
そんなことしないでいたら、永遠に知念の一番は変わらねぇじゃん。そんなの、おかしい。

「美化しすぎなんだろ、そいつのこと。」
「そうかなぁ」「そうだろ!」

イライラが止まらなくて。
こんなこと言いたくないのに、口が止まらない。

「片思いの期間なんてきっと相手のこと綺麗に見えるもんなんだよ。
付き合ってみないと本性なんてわかんねぇし、一緒にいるうちに絶対飽きて、なんでこいつと付き合ってんだろ?って思うようになるんだよ」

そうに決まってる。
ラブソングや映画やドラマ、漫画みたいに、その人のこと永遠に好きなんてあり得ない。
一緒にいるだけで楽しくて、ドキドキして。
そんなんずっと1人の人に出来るわけないだろ。

「僕はならないよ」「なるよ!」「……どうしたの?涼介」

苛立つ俺に、ついに知念がそんな口を開く。
……どうしたの?って。そんなん、俺もよくわかんねぇよ。

「…………別に。知念がバカだから」

酷い言い草だってわかってる。でも苛立って止められなくて。

「涼介よりは賢いと思うんだけどー」

笑う知念のこと、顔を上げて見ると、いつもと同じ笑顔で。じっと見つめると「ん?」って首を傾げられた。
「………ごめん」「いーえ。」
クスクス笑う笑顔に、肩を落とすと、知念はまた口を開く。

「でもまぁ、」
真っ直ぐ見つめられた顔を見返す。
「もういい歳だし。」「……俺?」「うん」

コクリ、頷く顔に「お前も同い年だろ」って返すと
「まぁ、そうだけどね」って笑う。

「そろそろ、素直になってもいいんじゃないですか?」
「……は?」

真っ直ぐ見つめられた目が、ゆるりと細められて、
慌てて目を晒そうとしたけど「涼介さん」って声に、
魔法みたいに動けなくなった。

「いい加減、お遊びはやめて、
本物の恋を始めてみたらどうですか?」

真っ直ぐな目に、息もできないほどの鼓動が鳴り響く。

「……相手は、」カラカラに乾いた口でなんとか言えば、
「僕が引き受けましょう」って笑う知念が居た。


目の前にいるその人は。
一緒にいると楽しくて、癒されて、ホッとして。
誰より愛しくて、大切で、信頼できて。
いつだって側にいて欲しくて、隣に居たくて、他の奴になんか渡したくない、今までもこれからも、たった1人の存在だ。

あぁ、なんだこれ。
羅列したら、まるでラブソングだ。

自分自身に苦笑して、ほんの少し、不安げに揺れる瞳に笑ってやった。

「……本物の恋なら、ずっと前からしてるっつうの」

引き寄せて、初めて触れた唇。
たったそれだけで、全身が震えるんだってこと初めて知った。


「一緒にいるうちに飽きるか、やってみる?」

唇を離した瞬間、いたずらな笑顔でそんなことを言うから、
ギュッと離れないように抱きしめてから口を開いた。
「一生かけて、検証してみようか」って。


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