BOOK:79 りある

□☆Santa tell me
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「お疲れ様でーす」

一人、撮影を終えて、重い身体を引きずって車から降りた。
エレベーターに乗り込むと同時、すぐさま開いたスマホには“楽しんでるよー”なんて恋人からの写真。

メンバーの何人かと本当に楽しそうな笑顔に何とも言えない気持ちになって。
だけど、心はホッコリ温まるんだから、不思議なもんだ。


平成最後のクリスマス。
そんな言葉は、やけにロマンチックなような気がしたけど。
その日が仕事になってしまった今。
俺は、新しい年号、その“初めてのクリスマス”に期待を膨らませている。
ほら、そっちのほうがロマンチックでいいよなって、頭の中必死に納得させて。


「んー」

真っ暗な部屋に電気をつける。
最近は殆ど毎日知念がいたのに。
ちょっと寂しい気持ちで、さっき閉じた画面をもう一度開いた。


“俺も今終わって帰ったところ”

楽しんでね。って続けようかと思ったけど、やめた。
実際、俺が言わなくっても最高に楽しんでるだろうし。
ちょっとは俺のことも考えてほしいし。
……今日はこっちに帰って来いよって言おうかな。

スマホに伸ばした手を、引っ込めて、暖房をつけて風呂場に向かった。

さすがにそれは。
…あ、でも、メリークリスマスぐらいは送ろうかなって。
リビングに置いたそれをまた取りに行くと…「…っあれ?」

さすがに今日の返事は遅くなると思っていたのに、早くも画面がメッセージを知らせていた。

「……ふ、なんだこれ。」


【知念サンタのクイズに5問正解出来たら、いいものあげる】

酒なのか、真っ赤な変顔と共に送られたメッセージに笑って、スタンプを返す。

【それじゃ第1問】
【パンはパンでも、食べられないパンは?】

「めちゃくちゃ簡単じゃん」

笑って【フライパン】って返せば、
【見に行くの!】なんて返事。

あぁ、そういうことか。
知念は俺が退屈しないようにってこんな…。

「っふ…」

クスリと笑って立ち上がる。
正直、ちょっと面倒だけど、楽しんでやろうじゃないか。
恋人がくれた、可愛い可愛いプレゼント。この時間を。



キッチンに向かい、フライパンを見てみると、裏側に器用にも張り付けられていた封筒。
クスリと笑って中身を取り出す。

せいかーい!
 第二問!「ま」よりも「ら」の方が大きい。これなーんだ

「……はぁ?」

首を傾げて、とりあえず温かいリビングへ。
しばらく問題とにらめっこしてからスマホを取り出す。

【ヒントちょーだい】

送ってみれば、やっぱりわりかし早い返事。

【数学をちゃんとしてなかった山田くんには難しいかなー】

「…ん?」

数学…「あぁ!」。
なるほど、まくらか。

紙に書いて頷くと、小走りで寝室へ。
枕の下、封筒を取り出した。

せいかーい!どうせ涼介はヒント聞いただろうけど
「…うるせーな。」

気を取り直して、第3問!
 「みきくけこ」これなーんだ

「はぁ?」

リビングに戻りながら頭をひねらす。
「…み…き?くけこ?……あ!」

かがみ、だ。
思わず声が出たこと、ちょっと恥ずかしく思って一人、小さく笑う。

「…つーか、どこの鏡だよ。」

鏡つったって、いろいろ…。
その時、“へぇー、こんなところに鏡あったんだ”
この前、家で知念がそんなことをいたずらに笑って言ってたことを思い出す。
あれはたしか……。


「やっぱり。」

クローゼットの扉。
取り付けられた鏡に止められた封筒。

日頃から僕の話もよく聞いてましたー!

「うるせー」
笑いながら視線はその裏へ。

頑張ってねー!ラストスパート第4問!

と、その先に書かれたのはどうやら絵らしいが。
…あまりに独特なタッチ過ぎてわからない。

【絵が下手すぎてわかりまてん】

メッセージに返ってきたのは
【涼介の解読力不足】なんて言葉と怒りのスタンプ。
それに笑えば、続けて送られてきたのは、いのちゃんが口いっぱいにトマトをほおばる写真と【いのちゃんの大好物】なんて、ほとんど答えのヒント。

「…トマトなんて買ってたかな」

笑いながら冷蔵庫を開けると、わざわざこのために用意したのか、トマトジュースと封筒が置かれていた。

「ったく。」

悔しいことに、ワクワクしながら開いた封筒。
もうすぐこの時間が終わってしまうこと、ちょっと寂しいと思っちゃってる俺は、知念の思惑通りに掌の上で転がっていることだろう。

僕の力作読み取れた!?
 あれは、「と」が「的」になってたわけですよ。

…あぁ、あれは、矢を構えた人間だったのか。
全然わかんなかった。

じゃあ、最後のもんだーい!
 これが正解出来たら、涼介の願い事をすーぐに知念サンタが、叶えてあげるからね

「…本当かよ」

笑いながら裏面へ。

第5問!
 柿→? 星→箸 西→腰 足→飯
 ?に入るのは何だ!

首を傾げて歩く。
これは…多分、めちゃくちゃ難しいじゃないか。

頭をひねらせど、意味も分からず。

【激ムズなんだけど】って送ってみれば、【そうでしょー】なんて返事。

ソファに座って【ヒントは?】なんて送りながら。
いつもなら隣にいるはずの温度を思い出していた。

…なぁ、知念。
お前は、俺の寂しい気を紛らわそうとしてこんなクイズ、作ってくれたかもしれないけど。
まぁ、確かに、寂しくはなくなった。なくなったけどさ。その代わり…。

「…会いてぇわ。」

バカみたいに会いたくなったんだけど。
どうしててくれんだよ。


【ちょっと待ってね】

しばらくしてから届いた返事に首を傾げてすぐ。
知らせた着信。急いで通話を押した。

「もしもし?」
『あ、もしもしー!あのね…ヒントだけど…』

…お前、皆と飲んでんじゃねぇの?
わざわざヒントのために抜けたのかよ。

バカだなって思いつつも。嬉しいに決まってるから。
「うん、教えて」って、自然と漏れた笑顔を隠すことなく声をかける。

『全部ひらがなにしてみて?法則、あるでしょ?』
「…えっと……」

 ほし→はし にし→こし あし→めし

「あぁ!」

なるほどって、思わず言えば、クスクス笑った声。

『分かった?』「バッチシ。」

言いながら、目的のそれを目指すために立ち上がる。

「でも、お前、そしたら俺の願い事、すぐ叶えなきゃだめなんだぞ。」
『善処するよ』
「お前なー」

笑いながら向かった玄関。
そこに置かれた傘に、手を伸ばした瞬間。

――ガチャ

「っえ…」
「だいせいかーい!」

開いた扉と、陽気な声。

視線の先には。
「ご褒美に涼介の願い事叶えてあげる!」
悪戯に笑う、最高に、愛しい人がいた。


「…え、お前、なんで。」
「ほらほら。願い事、なんだった?」

イヒヒって楽しそうな笑顔に。
こっちも思わず笑って。

ちょっと息を吐きだしてから、その目をまっすぐに見て、手を伸ばした。

「…お前に……、知念に、会いたかったです」
「ふふふ。デショ?りょーすけ、メリークリスマス!」



翌朝。
知念に聞いた。

俺が、クリスマスを過ごせないこと、すごく寂しそうだったから、このイベントを思いついて。
最初はプレゼントでも用意しようかと思ったらしいが…。
「涼介にとっては、僕に会うのが一番のプレゼントだからね」とのことだ。
全くもってその通り。…なんていうのは悔しかったんだけど。

キラキラの目で「楽しかった?」なんて聞かれたら。
俺は「さいっこうに楽しかった。ありがとな」って、酷く優しくキスをしてしまうんだから、困ったものだ。


……結局。最後まで俺は、掌の上を転がっていたんだけど。

そこが、ひどく心地よいから。
もう、これでいいってことにしようと思う。


「…ちねん」「……んん?」

まどろむ額にキスをおとすと、やわらかく笑った。

「……メリークリスマス。」
来年のクリスマスも、よろしくな。




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