BOOK:79 りある

□☆楽屋での一幕
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「大ちゃん、おはよ」「おぉ、やまだぁ〜」

みんなが集まる撮影現場。
みんなのことを見渡せるソファに陣取っていれば、空いていた隣に、山田が腰かけた。

「今日の撮影なんだけどさ……」

まじめに話す山田に、うんうん、って相槌を打ちながら、一方で、なんだかちょっと懐かしい気分に浸る。
一時期は毎日のように一緒で、毎日のようにご飯に行ってたけど、最近はお互いに時間も合わず、そういう時間はめっきり減ってしまったから。

相変わらず忙しくやっているようだが、充実しているんだろう。
朗らかに笑う横顔に、やっぱり、うんうん、と頷くのだった。


他のメンバーにも視線を移す。
裕翔とやぶちゃん、そして圭人は何やらやぶちゃんのスマホを覗き込んでいる。
みんな同じタイミングでリアクションしているから、なにかの動画か、ゲームだな。

ギャーギャー騒ぐ、その傍で光くんが寝ているけど、それはいつものことだから問題なし。

いのちゃんと高木は2人で何かコソコソ話している。
本当、最近怪しいんだよな、あの2人。
一体なんの悪巧みしてんのか。
まぁ、大概は高木が止めてくれるだろうけど。
いのちゃんは信じられないイタズラをしてくるから、困るんだよ。
…いや、されるのが困るんじゃなくて、どうやってやり返すのかがね。考えるの大変なんだ。

そして…。
珍しく誰にも絡まず、ちょこんと座って弁当を食べているのは、みんなの恋人、知念である。

こんなこと言ったら隣に座る男に殺されるだろうけど。
どうしたって可愛いんだから仕方ない。山田だけに独占させるわけにはいかないだろう。
本当、ご飯食べてるだけなのに可愛いもんな。もぐもぐ口動かしてるだけで。

…ほら。
隣の男もその姿を見てデレーっと頬を緩めている。全く、締まりのない顔だ。


それにしても本当に珍しい。
せっかく隣が空いているのに、喧嘩でもしたのだろうか。


なんてことを考えていれば。
パッとその知念の顔が上がった。


何故だか悪いことした気分になって、さも雑誌を読んでます風に本を広げてみた。


すると、知念は「涼介、来て」と、一言。

隣のにやけ顔はそう言われるのがわかってたみたいに立ち上がる。

…お?なんだなんだ。


「はい、ここここ。」

ポンポンって自分の隣の席を叩く知念に忠犬のごとく従う山田。

そんなハチ公…もとい、山田の前にズイッとお弁当を突きつけた知念。

「…お前、好き嫌いすんなよぉ」

山田はにやけ顔のままそう言っているが、知念は
「違うよ。涼介好きだろうと思って残しといてあげたの。はい、どうぞ。」
なんて、手慣れたもんだ。
「…それはどうも。」
結局、山田は笑ってそれをむしゃむしゃ食べ始めるのだった。


…ははぁーん。なるほどね。
山田はもともと知念の食べている弁当に苦手なものが入っているのを知ってて。自分が呼ばれるのを待機してたわけか。

健気だなぁ。愛だよなぁ。

…いや、健気なのか?愛なのか?




「ね、大貴」

「…へ?」

問いが迷宮入りしそうになったとき、
知念からのそんな声にパッと顔を上げた。

なぜか呆れ顔の知念に間抜けな声を返せば。

「…雑誌逆さだけど、それであってるの?」

って一言。

「いや、大ちゃんレベルになると、もう普通の読み方じゃ雑誌も楽しめないのよ!」

ネタを見つけた!と弾ける笑顔ではしゃぐいのちゃんに、「大ちゃんレベルってなんだよ」と高木が突っ込んでるけど、高木も笑ってて、もはや止める気はなさそうだ。

「あはは!さすが大ちゃん!」
キャッキャ楽しそうな裕翔に、
「じゃあさ、なんか読んでよ!その記事の中で、一番、感銘を受けた文章!」
なんて余計な提案のやぶちゃん。

いつの間にか起きていた光くんもニヤニヤこっちを見ているし。
唯一、少し心配している様子なのは圭人。
…本当にお前は心優しい青年だ。

「あー、いいよ。感銘ね、感銘…」

と、そこで初めて雑誌に目を落として気づいた。

…なんてこった。
知念のことを盗み見るためだけにとっさに取った雑誌だったから、わからなかったけど…。

「ねぇー、大ちゃん早くー!」

…くそう、いのちゃんめ!!全部わかってたな。

なんと、開いた雑誌は、全て英語で書かれていたのだ。

もはや逆さな事は関係ない。
ただ、純粋に。英語がわからない。


それでも、なんとか目を凝らして、わかりそうな文章を、探す。

すると、一文だけ見つけた。
その言葉。

あ、わかる!って思った俺が口を開いたのと、楽屋のドアが開いたのは同時だった。

響き渡った俺の大きな声の「I love you」。

入ってきたスタッフさんは一体何事か、というように目をパチクリさせた後、


「…スタジオ入り、お願いしまーす」


と冷静に一言。
何事もなかったかのようにその場を離れるのだった。


ドアが閉まるや否や、巻き起こった大爆笑。

「お前らフォローしろよ!絶対変なやつだと思われただろ!」

「いや、まさかのワードチョイスすぎて」
お腹を抱えて笑ういのちゃんに、
「突然、愛の告白するとは思わないよね」
なんて満面の笑みで言った知念。

「しかもあんなでかい声で」
高木は追い討ちをかけてきた。裏切りだ。

「普通、ドア開くってわかったら言わないでしょ」
「いや、有岡大貴は普通じゃないからなぁ」
誰より大きな声で笑った裕翔は安定のバッサリ発言だし、やぶちゃんはフォローなのか煽りなのか。

「八乙女さん意味わかります?」
「そんぐらいわかるわ!」
山田は光くんまでいじりだしたし。

少し落ち着いたかと思えば、
「あ、でも、すごい発音良かったと思うよ」
って圭人がこぼした一言に、みんながまたドッと笑う。

「…お前の優しさは、時に残酷だな。」

その肩に手を置いて感慨に耽っていれば、
再びスタッフさんがドアを開き、俺のことを見てギョッとした後、
「…スタジオ入りお願いしまーす!」
と、再び言うのだった。

「…もう、俺、圭人に愛の告白してる感じになってるじゃん。」
そんな俺のつぶやきに、

「すいません、うちの有岡が突然愛叫びたいっていったもんで。」
そんないのちゃんの言葉に、やっぱりみんな笑う。

…さっきのスタッフさんはやっぱり引きつったような笑いを浮かべているけどね。



…あぁ、もう本当に。

笑うみんなの顔を見渡して。
うちのグループは本当に最高だな。

って、最終的にはそこに落ち着いた。

…だから、案外、嘘じゃないんだぜ。
さっきの「I love you」もさ。
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