BOOK:79 りある
□☆小ネタ集
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「もみ消せぬキス」cn side
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「…ゆうりー!!」
…予想はしていたけれど、思った以上の暴れ具合に苦笑いをこぼしながら、急いで玄関へ向かう。
「あ!俺の侑李!こっち見て!はい!チュー!!」
僕の苦笑いになんて全く気づかず、チュッチュチュッチュ顔中にキスを落とす涼介は、予想通り、異常だ。
いつもなら絶対ありえない姿に苦笑いを零しながら、なんとかそのダラけた体を引き上げた。
「涼介、ほら、寝るよ」
「…やだよ!!」
ギュっと抱きつかれて、やっぱり苦笑い。
可愛いけど、なんも記憶ないんだろうし。
こんなデロンデロンな涼介相手にしても…なんて。
苦い想い。
…第一。
あの涼介が僕の家に帰ってくる時点でおかしいもんね。
いつもなら僕がゆっくり休めないだろう、なんてお節介で、滅多に僕の家には来てくれないんだから。
酔った時は素直になる、なんて言うけれど。
本当は家に来たいならいつだって来てくれたらいいのにって僕は思う。
まぁ、もちろん、
今の涼介に言っても意味ないし。
逆に、普段の涼介に言ってしまえば、無理してでもこっちに来ようとしてしまうからそんなこと言えないけどね。
そんな僕の甘酸っぱい気持ちを断ち切るような大きな声。
「…俺、今日は侑李とイチャイチャするって決めてたんだから!!」
「…うーん、そっかそっか。」
……全く。
その身体を抱き上げると、嬉しそうにキスを落とされて、苦笑い。
そのすごいアルコール臭で、僕の方まで酔いそうだ。
今日は、主演ドラマの中打ち上げ。
視聴率も好調で、主演の涼介は飲まされるんだろうなぁって予想していたけど。
まさか、ここまでとは…。
「知念!愛してるって言って!」
ベッドにたどり着いてもギュって抱きついたままの涼介の処理に困っていれば、そんな言葉。
「はいはい。愛してる愛してる」
「お前!なんだその返事!」
ブーブー言い出した涼介。
全く。酔ってるくせにその辺はちゃんとしてるんだから。
「…愛してるよ、涼介」
少し身体を離して。
真っ直ぐにその目を見て伝えれば、虚ろな目が嬉しそうに細められた。
「俺も。誰よりもお前を愛してる」
チュって可愛いキスを落とされて、また笑う。
…全く、この男は。
「ほら、涼介、お水」
中打ち上げの話を聞いた時点で、こんなことになるんじゃないかって用意していたお水をなんとか口に運ぶと、口を「イー」ってして、全く飲んでくれない。
「…涼介、飲んで。」
「やーだ!」
…全く。
この酔っ払いは。
思いっきり苦笑いをしてるけど、涼介は気づいてないのか「愛してるよー!」って叫んでニコニコ笑うばかり。
…普段なら絶っっ対ありえない姿だ。
「はぁー」
あぁ、もう。本当は、嫌だったのに。
なんて思いで、特大のため息の後、含んだ水。
唇を重ねて、涼介に流し込んだ。
それに少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑う涼介。
予想通り、深く深く唇を重ねられる。
「…ん!ちょ!涼介!!」
「……侑李、もう一杯」
…もう!絶対確信犯じゃん。
怒りたいのに。
嬉しそうに微笑む涼介に、何も言えなくなって、また僕は口に水を含む。
そうして、何度か繰り返したけれど。
涼介の方は、突然電池が切れたように眠ってしまうのだった。
…本当。
だから、嫌なんだ、
僕の方に残ったのは、酷いアルコール臭と、解消のしようのない、熱だけじゃないか。
ギロッと眠る涼介をにらんで見るけど、
こうやって幸せそうに眠る姿を見ていたら、なんだって許してしまうんだから不思議なものだ。
まぁ、もちろん、明日の朝になったら、詰め寄ってやろう。
迷惑かけられた分、思いっきり甘えてられるしね。
…この問題は、絶対、もみ消すなんて許さないんだからね。
幸せそうな涼介のほっぺたに、軽くキスを落として、眠る直前、僕はこっそり、そう誓うのだった。