BOOK:79 りある

□★すまいるそんぐ
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「隣にいてよ」ym目線


いつものように、昼頃の通学。

本当は休んでもよかったけど、今日は午後から知念と一緒の現場だし。

どうせなら飯食ってから一緒に行こう、と重い腰を上げた。


「おはよ」

「あ、山ちゃん」


おはよう、と笑う知念を視界におさめて自然と手はその頭へ。

珍しく知念の周りに人がいない。と、いうのもその手元には何やら書き物。勉強でもしてたのかな。


「ノート?」

「あぁ、うん。サンキュ」


邪魔していたら悪いなぁなんて思っていると、当の知念はいつも通りそう聞いた。


すっかり当たり前になったそのやりとり。


俺が休んでた分のノートを知念から借りるっていう…。


実は、知念のノートは独特すぎて解読できないから借りても意味ないんだけど、話しかける口実がほしくて続けている習慣。


こうでもしないと、いつもみんなの輪の中心にいる知念に話しかけることなんてできないから。


今日は周りに人もいないしこれ幸いと、空いている隣に腰掛ける。


「勉強中?」


俺と同じく忙しくしているはずなのに、いつも成績の良い知念は撮影現場とかでもたまに勉強してたりするんだけど。


「うんんー。」


ニッコリ笑う手元、視線を寄せれば、たしかに難解な数式とか見たことない単語は見当たらない。


「…あ、歌詞か」


せいかーい、という声。

そう言えば出されていた、今度のアルバムで作詞してみるのはどうかっていう課題。


なんだよ、学校で書いてんのか。


こっちは頭ひねって集中してなんとかやってんのに。

相変わらずすげぇな。


なんて感心していれば

「裕翔くんにね、届いたらいいなって」

ポツリと零された言葉。


驚いてそっちを見れば、もう知念のその目は俺を見ていなかった。


…なんだよ、それ。


知念の手元にある歌詞を見ないようにその場を離れる。


チラリと知念がこっちを見た気がしたけど、胸のモヤモヤのせいで、視線を返すことはできなかった。


だって。そこに書かれた言葉を知りたくなくて。


しばらくして、どこかから「裕翔くん」が帰ってきて。

俺と知念の間の席に…。

知念に一番近いその席を簡単に陣取った。


くるりと後ろを向いた知念は裕翔くんと無邪気に、楽しそうに話を始める。


…裕翔くんへの歌詞はもういいの?

それとも、本人には言えないような内容だから隠してる?



裕翔くんは、

知念とおんなじぐらい頭もいいし、しっかりしてる。背も高くって。真面目で。


そして何より。

…学校で二人は、いつも一緒で。


そんな裕翔くんに、お前はどんな歌詞を書いたの?


それを考えると怖くて。

いつも俺の隣に居てくれたはずの知念が急に遠く感じて。


知念、離れてくなよ。

ずっと、俺の隣に居てくれよ。

頼むから。そしたら俺は頑張れるから、、。




ただの仕事仲間とか、メンバーとか、親友とか相棒とか。

そういう範囲を超えた知念の存在の意味をほんの少し考え始めた。


そんな、ある昼休みの出来事。


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