BOOK:79 ぱろでぃ

□A只今、天使研修中 番外編集
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「只今、天使研修中」
本編終了から2,5か月後の話

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「僕の方は降ってないもん!」

言いながら、ぼたぼたと落ちる雨粒を睨み付けたけど、全くそれは止まる気配がない。

『……お前は一体、どこに住んでんだよ。
今日は一日、全国的に土砂降りってテレビで言ってるからね』
スマホから聞こえる声は笑い混じり。

悔しくなって、その顔を思い出してスマホを睨みつけたら、余計に会いたくなってしまった。
……悔しい。

「……降ってないもん」

梅雨入り宣告をされたのは、ついこの間のこと。
だけど休日である今日が、梅雨の晴れ間だって聞いて、涼介が「せっかく晴れるならどっか行く?」って言ってくれたのが昨日。
だからそれを、すごーく楽しみにしていたっていうのに。

あーあ、これじゃあ、お出かけはパーだ。

『はいはい。』
やっぱりクスクス笑う声。
涼介の方は全然残念がってないのが悔しい。

僕ばっかり会いたくて、僕ばっかり楽しみにしてたんだ、きっと。

『また今度な』

今度っていつ?って言おうかと思ったけど、なんか悔しいし、それはさすがに態度が悪いなって思ったから、コクリと頷いてから、電話だから見えないかもって慌てて「うん!」って返事をすると、笑い声が聞こえた。脳裏に簡単に浮かぶ笑顔が大好きで、悔しい。

僕が涼介の会社に派遣されて早3ヶ月。
会社帰りにご飯に行ったり、休日に遊びに行ったり。

きっと、涼介は僕のこと気に入ってくれてるとは思う。
……思うんだけど。

なんかねぇ、よくわからないんだ。涼介って。

だってね、研修の時は当たり前に抱きつけたし、一緒に寝れてた。
涼介だって、いつも僕を隣に置いてくれたのに、今はどうだろうか。

抱きしめてもくれないし、手も繋いでくれない。
雑魚寝してるときでさえ、僕が隣で寝ていれば、翌朝、お化けに会ったかのような、ものすごいリアクションを見せる。

『……知念?』

そのくせ。
こうやってかけてくれる声は、あの時のように優しくて甘いから困ってしまう。

こんなんじゃあ、僕は好きになるばっかりだもん。

「……わかった。」

クスクス笑う声に、心の中でため息をつく。
あーあ、会いたかったなぁ…って。

「……じゃあ、月曜日ね」

だけど、そんなわがままを言えるような関係ではないから。
恨めしい気持ちで電話を切ろうとした時、

『……あ、待って。
もし知念、暇なら、家来ないかなって思ってたんだけど…。』

そんな声が漏れ聞こえて、慌ててスマホを耳に当て直した。
もちろん「行く!」ってすぐに返事をして。

クスクス笑う涼介が『じゃあ、迎え行くから……』っていうのに首を振って「待ってらんないから僕が行く!」て早口にいうと電話を切って、出かける用意はバッチリしてたから、すぐに家を飛び出した。

涼介と2人でお家で過ごせるなら、万々歳だ。
全く雨でも問題ない。むしろ雨でよかったぐらい。

スキップしてしまいそうになりながら、雨の中を小走りで進んで、ちょうど滑り込んできた電車に乗り込む。

……そういえば、天使研修している時も、こんな風に突然雨になったことがあったっけ。

あの時、確か涼介は、お出かけしたかったって肩を落とした僕の頭を撫でて“映画でも見る?”って近所のレンタルショップへ連れてってくれた。

僕のお気に入りのアニメ映画を借りて、2人で見たっけ。
涼介はあんまりその映画は好きじゃないのか、
途中からは、ほっぺを引っ張ったり、後ろからギュってしたりって、僕をおもちゃにして遊んでたけど。

……あれも、とっても大切な思い出だなぁ。

あの時だって、別に付き合ってなかったけど。
ああいう風に、当たり前に触れ合えるような関係になれるのに、あとどのくらい時間がかかるかな。

早く何にも考えずにギュって抱きつきたい。
今の涼介に突然抱きついたりしたら、怯えちゃいそうだから、まだできないけど。

反応を想像すれば、面白いのとちょっと切ないの半々で。
それでもひとまず、会えるのが嬉しいから。
涼介の家の最寄に着いた電車を降り、意気揚々と雨の中、繰り出そうとしたとき。

「知念」「あれ?涼介!」

駅前に、傘をさしたその姿を見つけて慌てて駆け寄った。

傘があるからあんまり近づけないのが残念だけど、予定よりちょっとでも早く会えたのが嬉しい。

「どうしたの?」「…ん? あー、牛乳、切れてて。」

牛乳、えらい!
満面の笑みで「そーなんだー!」って返すと、2人並んで歩き出した。

少しだけ遠い距離が恨めしい。

…突然、強風とかが吹いて傘が壊れればいいのに。
ちょっと傘を振ってみたけど、
「……なにしてんの?」
って顔をしかめられたし、壊れる気配もないから、すぐに諦めた。

それでも諦められなくて。

「涼介、牛乳は?」「あー、うん」
コンビニで牛乳とお菓子をちょこちょこ買った荷物を見て、名案が浮かんだ。

「ね!荷物持ってあげる!」
え、いいよって涼介に「いーから!」と、強引に荷物を奪って。
「だから、傘入れて!」って一歩近づいた。

だって。
天使研修の時、2人でレンタルショップに行くときは、相合傘だったんだもん。
しかも、そのときは涼介の方から“おいで、一緒に入ってこ”って言ってくれたんだよ?
傘の中、2人だけの世界が嬉しくてドキドキしたんだ。

今の涼介は、ギョッとした顔をしてから、
「…いいけどさ」
って渋い顔をするからちょっと傷ついたけど。
でも、あの時のように「おいで」って笑ってくれたから、すぐに気持ちは浮上した。

「……やっぱ俺、一個持つ。」

近づいた距離が嬉しくって、ルンルン気分で鼻歌交じりに歩くこと、しばらく。
そんな言葉の後で、涼介が奪うようにコンビニの袋を一個持った。

……これは、僕も傘をさせってことかな。

手持ち無沙汰になった左手に困っていると
「知念、肩濡れちゃうから、もうちょっとこっちおいで」って思ってもみない言葉。

嬉しくて嬉しくて、思いっきり頷いてから、ぴったりひっつくようにして歩いた。
相変わらずの僕の鼻歌に涼介が小さく笑うことに、また、嬉しくなりながら。




「ただいまー」
まるであの時のような距離感が嬉しくて、思わず上機嫌で、あの時のようにそう言えば、涼介も笑って「おかえり」って言ってくれた。

クルッと振り返って顔を見ると「ん?」って優しく笑われて、ギュッて抱きつきたいのを堪えて、笑う。

「牛乳、入れてきてあげる!」
いけない、いけない。って、思いながら、冷蔵庫を開くと、まだ一本まるまる残っている牛乳。

……涼介、そんなに牛乳好きだっけ?

「……あぁ、まだあったわ」
後ろから苦笑まじりで言った涼介に「そんなに飲んでも、もう身長伸びないと思うよ」って返すと、笑って軽く頭を叩かれた。

ひとまず、2人で牛乳を飲んでみてから、リビングに行くと、すぐにサボテンの元へ。
相変わらず、二鉢仲良く育ってるようだ。

「知念は本当にサボテン好きだね」「うんー」

クスクス笑う涼介がソファに座ったから、その隣、少し距離を置いて座った。

話をしててもいいけど、せっかく雨が降ったなら。
「ね、なんか映画見たい」
やっぱりあの時のように過ごせたらなって、横を見ると
「…俺もそう言おうかと思ってた」
って驚いたような目をされた。

……ふふふ。
そりゃそうだよね。だって、もともとは、涼介の提案だもん。

ニッコリ笑ってから「レンタルショップ行く?」って聞くと、「あ、待って。」って、立ち上がり、テレビの前の棚へ。

「これ見ない?」
そう言って、差し出されたDVDに、目を見開いた。



「……ちねん?」「…これ、なんで……」



それは、あの時に見たアニメ映画で。

涼介、退屈そうにしてたくせに。
わざわざ買ったの?
あの時持ってなかったのに…。
……じゃあ、あの後で?

「さっき、鼻歌歌ってたじゃん。好きでしょ?」
優しい笑顔に頷いてから、
「……涼介、こういうの見るんだ」ってなんとか、言えば「あー、うん」って、言いながら涼介はテレビの前へ。

「…いや、全然見なかったけどね。
ちょっと前から……これ見ると落ち着くっていうか。
あったかい気持ちになるんだよね。

他のやつはあんま見ないんだけどさ、これだけ、ね。」

その優しい笑顔は、天使研修生の時の僕に向けられた顔なんだ、きっと。
……ねぇ、涼介。
もしかしたら、最大のライバルは、あの時の僕?

思わず笑ってから、大きく頷いた。

「大好き!」「え?」

ポカンとした顔の後、「あぁ、DVDね?」って返した涼介は、機械の操作を始めたから、満面の笑みで、その背中に飛び乗った。

「……うわっ、あっぶねぇ」「大好き!この映画も!」「はい?」

ギュッと抱きついた僕に呆れたように笑った涼介の先で、大好きな映画が始まった。

大きな声でオープニングを歌うと、また笑って。
「ほら、見るから降りろ」ってソファに落とされて、2人、並んで見始めた映画。
もう、遠慮なんか忘れてぴったりとひっつく僕に、涼介は終始苦笑い。

「……お前さぁ」「ん?」

ニコニコの僕を見て、大きなため息を一つ。
「……なんでもない」って眉を下げた涼介は、やっぱりこの映画を楽しんでるわけじゃないみたいで、途中からは、僕の肩に頭を乗せて穏やかな寝息をたてていた。


涼介が起きたら、たくさん話をしよう。
たくさん笑おう。

研修の時に出来なかったくだらない時間の過ごし方をたくさんしよう。
今しかない、この時間を楽しんで。

それでいつか。
涼介の中で、あの時よりも僕の存在が大きくなったら。

そしたら、思いっきり抱きしめてもらおう。

きっと、今の期間は、僕の人生最後の片思い期間だから。
今のうちに、もどかしい思いをたくさん経験しておくんだ。

シトシトと降り続ける雨の中、隣に眠る大好きな人に倣って目を閉じた僕は、そんな幸せなことを考えながら眠りについたから、また少しだけ、雨が好きになった。
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