BOOK:79 ぱろでぃ

□A只今、天使研修中 番外編集
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「ゆーてぃー」



あぁ、タイムリミットだ。
温度のない声に、フッと現実に戻り、
顔を上げると、やま……いや、独裁者が。

「重いでしょ?おろしな。ベッド使わせてもいいから。」
ジェントルマン気取ってるけど、明らかに怒ってるでしょ。
早く知念を離せって目が言ってるよ、笑顔引きつってるし。

「じゃあ俺が抱っこしてやるよ!」「……はい?」
明らかに面白がっている大ちゃんがそんなことを言ってしまったもんだから、やまの綺麗な顔がさらに歪む。

……なんだこれ。修羅場か。

なんかちょっとこの状況が面白くなってクスクス笑ってしまえば、「……んん」って声とともに、膝の上でもぞもぞと動いて、パチリと天使の目が開いた。

「…あ、おはよう」フワリと笑う知念に、俺も「おはよう」って返そうとしたけど。
すかさず「知念?ゆーてぃー重いって。こっちおいで?」ってやまの声がして。
俺と大ちゃんは顔を見合わせて笑ってしまった。
知念は知念で「えぇー」なんて言いながらも、嬉しそう。



……あの時。再び会えた、奇跡のあの瞬間。

知念の隣には、やまが居た。
俺の方がずっと隣にいたはずなのに、その2人の姿を見た時、
妙にしっくり来ちゃって。

嬉しそうな、幸せそうな知念を見て、
胸がピリッと痛んだ気がしたんだ。

だけど、俺にとっては、もう一度だけでも会えたって。
それだけで満足だったから。

それ以上は、何も望まないよ。これからだって、ずっと。



未だ、膝の上から降りない知念に
「ほら、おりて一緒にアイス食おう?」って真剣に話しかけるやまを見て「アイスかぁ〜」ってやっぱり嬉しそうな知念。

そんな2人の様子に心からの笑みが漏れる。

知念はきっと、本当に嬉しいんだ。
今、この瞬間、またやまの家に来れたことが。
こうやって、やまの側にいられることが。

知念が嬉しいなら、俺も嬉しい。

そんなことを考えて、やまがアイスを取りに行った隙にこっそりと声をかけた。「……よかったね、知念」って。

やまと出会えたこと。
やまがまた好きになってくれたこと。

ほんと、よかったね?って。
笑って頭を撫でてやると「うん」って知念は満面の笑み。
その笑顔に、目頭まで熱くなるほどに心は温まった。

誰よりも特別な2人。
俺は、その応援隊長でいたいと思っているから。

知念の特別は、やまにあげるから。

そうやって思っていた俺は、
「ゆーてぃー、僕ね……」って知念がくれた言葉に


「……っ!」

息も、出来なくて。





「え!?ゆーてぃー!?
ちょーい!それはアウトだからな!!おい!」

「裕翔すげー!勇者だなぁー!」



思わずギュッてその小さな体を抱きしめていた。




だって。知念は言ったんだ。







「……僕の親友が、ゆーてぃーでよかった」って。












「……俺も。知念で良かった。」

他の誰でもなく、知念で。本当によかった。
心から、こぼした言葉。

知念はそれに、「へへへ。僕、お風呂はいってこよー」
って、少し照れたように笑って、膝から降りてしまったけど
きっと俺は、この温もりを、一生、忘れないと思う。











「あー!やっぱ知念は、やまにはあげたくないなぁ〜!」
「っは!?いや、知念はお前のじゃないからね!」
「そうだそうだ!知念はみーんなのアイドルだからな!」
「いや!!研修担当は俺だから!」
「ただの研修担当じゃん」「ちいせぇぞ!山田!」

知念がお風呂に入ってる隙に、
大ちゃんと笑いながらやまをからかって。

「…ううん〜眠いよ〜」
「知念?眠いなら、ベッド行きな?」
「……んー、なぁに、りょーすけ?」
「……っりょー、すけっ……」

名前を呼ばれて真っ赤になって固まったやまに、また笑って。


とにかく、たくさん笑ったんだ。



前にこの家に来た時は、
泣きたいのを必死にこらえて笑ってたけど。

今は、心から笑えている。

それはきっと、大好きな“親友”が
今も、これからも、隣にいてくれるって、そう思うからだ。







そのあとは、結局、酔いつぶれて、みんなで雑魚寝。
2ヶ月前と、なんら成長は無いようだ。


「……ふぁー」

深夜。
1人、トイレに行こうと起き出した。
これも、あの時と同じ。

そして、あの時のように、
寄り添って眠る知念とやまを見て笑って。

あの時のように、その傍にしゃがみ込んだ。
そして囁く。
それは、やっぱりあの時と同じなんだけど……。

あの時は泣きながら“本当にありがとう”って。
そう言った。



……だけど今は。
その寝顔に、ニッコリと笑いかけたんだ。

「……これからも、よろしく。最高の…親友として」って。
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