BOOK:79 ぱろでぃ
□A只今、天使研修中 Lesson4 2/4(Mon)
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「寒いから、早く入ろう」
心がギュって痛んだのは、きっと寒いベランダに出たからだ、って。
そうやって自分を納得させて、一人、ベッドに入った。
知念はついて来なかったようだ。
布団を譲れ、とか言ってくると思ったから少し意外。
…そういえば。
何だかんだ知念が来てから一人でこうやってベッド寝るのは初めてだ。
初日は、俺が風呂に入っている間にソファで寝ていた知念を見て、なんとなく一人で温かい布団に入る気になれず。
その傍らでゲームをしている間に寝落ちしていた。
次の日はお化け屋敷の夜だったし。
昨日はテキスト読みながらコタツで寝落ち。
たった3日だけなのに、知念が隣にいることに慣れてしまったのか、ベッドはひんやりと冷え切って、隣が寂しい気がする。
…知念、こっちに来ないのかな。
でも、俺が呼ぶのはなんか違う。
俺はあくまでも研修先で。
…いや?良いのか?研修先だから、逆に良いのか?
どちらにせよ、知念がちゃんとあったかくしているか確認しようって、布団から出ようとしたとき。
「…りょうすけー」「ん?」
そろりとドアが開いて、知念が入ってきた。
あまりのタイミングに驚きつつ、平静を装って「どうした?」ってかけた声に、知念は暗闇の中でもわかる笑顔をこぼした。
「涼介、寒いかなーって、湯たんぽのお届けです」
「おぉ、気が利く」
本当は、知念が一緒に寝てくれたらそれで満足だけど。
湯たんぽでも、温かければ少しは気持ちが和らぐだろう。
そう思って手を伸ばすのに。
思ったような温もりは訪れず。
「ん?」顔をしかめれば、いたずらな顔した知念が「ちょっと寄ってよ」って。
言われるがままに壁側に寄れば「よいしょ」って言いながら知念が空いたスペースに入ってきた。
「ん?どうした?」
ドキドキする気持ちを隠すように問えば、
「へへへ、人間ゆたんぽ。こたつで温まってきたからポカポカでしょ?」
って近い距離で嬉しそうな顔。
「…ふ、なんだよそれ。」
なんて言いながら、ちゃっかり、その身体に腕を回せば、確かに温かくて。
心までじんわり温まった。
…この時、俺は思ってしまった。
知念の研修先が、俺でよかったって。
知念の温もりが、他の人に取られなくって、
1か月間でも、その笑顔を独占できるのが、俺でよかったって。
そんな風に、思ってしまったんだ。
そんな風に、特別に思ってしまえば。
辛いのは自分だって、わかっているのに。
「大貴呼ぶときさぁ」
「ん?」
「もう一人、呼んでいい?僕の友達」
「天使研修、信じてくれんの?」
「うん、たぶん」
「ふーん。じゃあ、良いけど」
「涼介とおんなじぐらいね、変な人だよ」
「おい、それどういうことだよ」
「…楽しみだなぁ」
「今週末とか?」
「予定聞いてみるね」
「うん。俺も大ちゃんに聞いてみる」
まどろみながらした会話。
もしかしたら。
さっきなら、もやっとしていた内容だったかもしれないけれど。
今、腕の中に知念がいるから。
俺の心は温かいままで。
少なくとも今は。
今だけは、この1か月は、俺が知念を独占できる理由があるんだって思えば、自然と俺は、笑っていられたんだ。