BOOK:79 ぱろでぃ
□A只今、天使研修中 Lesson3 2/2(Sat)
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「…は?」ポカーンと口を開く涼介に笑って。
「お家、帰ろ」って言えば、その顔がたちまち綻んだ。
「本当に?いいの?」「うん、人多くて疲れちゃった」
ホッとしたように笑った涼介に、僕の方も笑顔になって。
「帰ろっ、安全運転でね〜」「はいはい」
そそくさと帰路に着いた僕らは、帰りの車でたくさんのことを話した。
初めて遊園地に行った時のこと。小さい時の話。
どんな子供だったか、両親はどんな人で、兄弟はいるか。
好きなもの、嫌いなもの。
話せば話すほど性格も好みも正反対で。
質問しあっても被らない答え。
なのに、それが全然嫌な感じがしなくて、僕たちはずっとずっと笑っていた。
あぁ、どうしよう。たまらなく楽しいや。
「はぁー」
家に着いて、駐車場に車を入れた涼介がハンドルにおでこをつけて呟いた。
疲れちゃったのかな?って不安になってその顔を覗き込めば、チラリと見えた表情が、満面の笑みで。
驚いて「へ?」って声を上げると、その顔が横を向いて、僕を見た。
「すっげー楽しかった」
穏やかな笑顔で、そんな言葉が落とされて。
何も言えずにいれば涼介はさらに「ありがとう」って続けて。
そんなの、僕の方がありがとうなのに、って。
きっと、情けない顔を返した僕に、涼介は笑って「帰ろっ」って頭の上に手を乗せてくれるのだった。
さっきは、涼介がイライラしない人だから、日常的に苛立たせるのは諦めようって。
そうやって、自分を納得させたけど。
もしかしたら本当は、こんな風に穏やかに笑う涼介に、嫌な思いをさせたくないって。そう思ってるのかもしれないな。
期限は1ヶ月。
もしも天使になっちゃっても、後悔しないような毎日を過ごせばいい。
そう思って僕は、ご機嫌でエレベーター乗り込む後ろ姿にこっそり笑顔を落とすのだった。
「ちねんー!いるー?」
「ちゃんといるよー」
これはおまけの話だけど。
その日の夜、涼介はお風呂に入る時も扉の前に僕を呼び寄せたし。
「待って、知念。こっち」
あろうかとか、一人で寝られないって、僕を抱き枕がわりにベッドに呼び寄せた。
それは流石に抵抗したんだけど。
「お前のわがまま散々聞いてんだから、これぐらいは聞いてくれよ!天使だろ!」ってすごい剣幕で説得されちゃって。
お化け屋敷での抱きしめ事件にしろ、この人、距離感の取り方おかしいんだろうなって思いながら、仕方なくそれを受け入れて。
案外、その腕の中で眠るのは心地いいなぁ
って考えながら眠りについたのだった。