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□さわらぬ神になんとやら
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「何してんの?」
共同スペースに響いた、透き通る女子の声。振り返れば、俺的にはサバサバしていて一匹狼のイメージが強い無しの姿があった。
なんでかと言えば、無しは一人で何かしている事が多い。たまに耳郎にCDを貸したり借りたりしているところは見る。
だが、特に女子で仲の良いというグループはないのかばらばらに色んな人と話したりしていた。
俺たちのメンバーとも話したりするし、意外なのが爆豪とまぁまぁ仲がいい事。聞けば登山という共通の趣味があるということだ。
そんな事より女子の声、というのに一番速く反応したのは峰田。
「うお!!風呂上がりかよ?!」
「うん。あ、金ローやってるんだ」
俺の隣の切島の横に腰を下ろし、マグカップに入った紅茶を飲んでテレビを見ている。
正直言うと、今テレビは濡れ場のシーンで俺たちは若干興奮していた。海外の映画だからといってこんな時間にこんなシーンを流してもいいのか、という戸惑いがあった。
峰田、切島、俺、は興奮しては、峰田の下ネタが飛び交う。俺たち、ヒーロー目指してるけど、言えば16歳の男子高校生で……。
こんな場面で男子ばかりのこの場所に、無しがいてもいいのか?っていうか他の女子はどこにいてるんだよ。
「他の女子は?」
「みんな、課題やってたり好きなことしてる。男子も3人だけだけど?」
「俺たちは暇だったから……な!切島!」
「お、おう」
テレビの中は盛り上がりを見せて裸で抱き合う男女、際どく隠されているが刺激が強い。
「その手邪魔だ!見えねぇ!!」
峰田が喋り、俺もその場面を見ていたが無しがいなきゃ今頃下ネタのオンパレードだった。
にしても、この映画本当に全年齢か?本当にこれはやばい。下手なAVより抜ける。
というが、峰田の峰田は興奮状態なのか抑えながらトイレに走っていく。これ、無し大丈夫なのかよ。
俺も一旦、落ち着くために冷蔵庫に冷やしてある炭酸を取って一息つく。そしてそれを持ってソファーに戻ろうとした時だった。
不自然に重なる切島と無し。それも、切島は無しの顎に手を添えて薄く目を開けている。よくみれば、唇が重なっていて角度を変えるように深いキス。無しも頬を赤く染めて、俺の知っている顔じゃないし……お互いの眼差しが愛そのものだった。
ちょっと待て。
切島には彼女持ちだって話聞いたことがない。切島の初恋の話だって、幼稚園の時の先生だって聞いただけだ。それに学校にいるときだって二人が付き合っている素振りをみたことはない。というか、マブダチのような雰囲気だ。
絶対この光景は嘘だろ。
これは夢じゃないか?
そう思って1度頬をたたいてから目を開ければ、二人はテレビの中の映画を観ていて、その映画はいつの間にかアクションシーンに変わっている。あ、やっぱ夢か。
「はぁ、俺やべぇわ」
「ん?どうしたんだ、上鳴」
「いや、最近疲れてんのかわかんねぇけどさ……さっき切島と無しが、キスしてたんだけど。幻覚だったわ」
それを聞くなり、無しは噎せて切島は目を大きく開け真っ赤な顔をしていた。
「する訳ねぇ二人をくっ付けてごめんな」
「んん、大丈夫だ。それより、先に寝た方がいいぜ」
「おー。おやすみ」
俺は炭酸を持ち、エレベーターに向かった。明日は休みだしゆっくり寝るか。
さっきみたいに、ダチ同士がキスする夢は見ないように願いながらエレベーターに乗り込んだ。