short
□どこかで愛が眠ってる
1ページ/1ページ
私と鋭児郎は小さい頃から仲良くて、幼稚園、小学校、中学校も同じ。
今現在も、通っている高校も同じ。雄英高校で鋭児郎も私もヒーロー科。何から何まで同じなのは、偶然より必然な気がする。
その結果、幼馴染の友達以上の親友であり、鋭児郎は私を女子だとは思ってはいないし私も鋭児郎を異性だと思わない。
「やっぱ、お前ら近いよな」
上鳴くんに言われた言葉。前までは気付かなかっただけで、鋭児郎と喋るときや一緒に本を見るとき、色んな場面で距離が近いらしい。
中学から仲が良い三奈ちゃんに聞けば、
「え?わかってなかったの!?」
なんて、言われて私は驚いてしまった。
昔からの癖なんだろう。そう思っていた。
お昼に食堂で同じクラスの女子数人食べていた。世間話から、ヒーローの話。女子らしくファッションの話をしていた時だった。
ふと、顔を上げると幼馴染と同じクラスの数人の男子が歩いて、食べ終わったのだろう食器を持っている。
鋭児郎と目が合うと、犬のように私たちの方へ駆けてくる。
「名無し!それ、売り切れてたコーヒー牛乳!!」
「売り切れてたの?私の時、あったけど……」
自動販売機で買ったコーヒー牛乳が飲みかけたまま、机に置かれているのを見て鋭児郎は物欲しそうな顔をしていた。
コーヒー牛乳を持って、鋭児郎に差し出せば嬉しそうな顔をして受け取るとストローから飲んでいる。
返してくれた後を見れば、コーヒー牛乳の重みはなく外側のパックの重さしかない。
「全部飲んでいいって言ってないじゃん!」
「いや、残ってる量少なかったし。つーか、名無し甘いもん好きじゃねぇだろ?」
じゃ、と手をかざしてまた男子たちの方へ戻っていく。私は空になったのかを確認するためにストローをくわえて吸うとコーヒー味の空気しか残っていなかった。
友達の方を見ると、みんな目を見開いて私を見ている。なんでそんなに……と思っているとお茶子ちゃんが言ってくれた。
「か、か、か、か……」
吃り過ぎて言えていない。何?と聞く前に私の隣にいた三奈が変わりに言うように口を開いた。
「間接キス」
「間接キス?」
私を宇宙人を見たような感じで見られ、とても不愉快に思えてくるが、皆に聞けば私が飲んでいたコーヒー牛乳を鋭児郎が飲んでまたその後に、私がストローに口を着けていたのがありえないという事だった。
「名無しちゃん、幼馴染だとしても……間接キスって」
「青春だけど……ね!」
お茶子ちゃんは顔を真っ赤にさせていた。私は何がそんなに顔を赤くさせるほど、恥ずかしいんだろうと思っていると三奈が詳しく説明してくれた。
「名無し!切島の事、男だってわかってる?」
「たぶんわかってる」
「たぶんって。幼馴染でも、男女だって分かってたらやることとやらないことがあるんだよ。一回、名無しとどこが違うか見よ!男子と女子の違い」
「おっぱいが大きいか?」
「そういう事じゃないって!」
三奈の明るく言ってくれたお陰で、お茶子ちゃんの顔が元の色に戻ってきた。
癖なのかストローに口を付けかけると、二人が大声で止める。
ヒーロー基礎学でたまたま待ち時間が出来たため、三奈に言われたように鋭児郎と私の違いを見てみた。
半裸の鋭児郎は、見れば筋肉がついていて私と全く違う。背中が大きいところを見ると、思わず男性なんだな……と思わされた。
それに私は半裸なんてなれないし、これも男性ならではの特権かもしれない。
「半裸か……」
思わず呟いた言葉に、異様な早さで反応する男子生徒がいる。
「無し、もしかして半裸に興味あるのか?」
峰田くんが変な手のジェスチャーをしながら私に近寄る。気持ち悪くて私は少しずつ後ずさり。
「女子は半裸になれないでしょ?だから、男子だけの特権かな……って」
「オイラ、無しならなれ……あ゛ぁぁぁ!!」
峰田くんの叫び声が響くと、私は峰田くんの後ろにいた人物を見た。拳骨を入れたらしく峰田くんの頭はいつも以上にグレープだ。
「何、言ってんだよ。名無し、半裸半裸って言ってると上鳴も寄り付いてくるぞ」
鋭児郎が峰田くんに拳骨を入れたのか、手が硬化状態だ。そして、私の前には半裸の鋭児郎……。
「だって、鋭児郎が半裸だからさ……目、向けられないし……昔と全然違うから」
うわー!恥ずかしいこと言っちゃった!最後の方はたぶん、小さくて聞こえなかったと思うけど鋭児郎はいつもは見せない顔をしていた。
赤い髪と同じぐらい真っ赤になって、焦っている顔。
「俺だって…名無しがそんな格好してたら、なんか居心地わりぃんだよ……峰田みたいに寄ってくるやつとかに、変なことされねぇか心配だし」
「え……?」
意外だった。鋭児郎がこんな心配してくれるなんて。確かに私の格好は百ちゃんの次に際どいコスチュームだ。
それは際どいからってわかるけど、なんで心配なんか……。
「なんで心配なんかって思ってるだろ?」
鋭児郎の手が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。それを私は止めようと鋭児郎の腕を掴んだ。
「ちょ、鋭児郎……!」
「こんな心配とか、昼のやつとか親友だから幼馴染だからってやらねぇ」
「さっきから何言って」
「名無しのことが好きだ」
鋭児郎を見ると、いつもは見せない真剣な顔。風が私の頬を横切ったと思ったら、横から大声が聞こえた。
だけど、もう私たちの耳には入らない。
どこかで愛が眠ってる