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□笑う君に
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「ただいま」

優しい声がリビングに響いた。急いで玄関に向かうと、赤い髪の愛しい人。

笑顔を向けて、今日の晩飯は?と聞くがそれどころではない気がする。
体はぼろぼろだし、ヒーロースーツも破けている。彼の個性は硬化だけど、体を気張っているだけ


「鋭児郎」


「ん?どうしたんだよ、急に」


「ううん…なんでもない……あ、ご飯にする?お風呂?」


「風呂、先に入ってくるわ」


眩しいほどの笑顔を残して風呂場に行く鋭児郎。本当は笑顔だってしんどいはず。私の前では、疲れを出してくれていいのに。



着替えを脱衣場に持って行って、ヒーロースーツも洗濯しようかと思い持ち上げれば、ズボンの辺りが染みになっていることに気付いた。拭ってみれば、赤い……。鋭児郎の血なのか敵の血なのか。
今日のぼろぼろ具合をみれば、怪我をしているだろう。

そう私は思って、消毒液を出して鋭児郎がお風呂から上がってくるのを待った。



「ふー、さっぱりした!」


髪を下ろした鋭児郎。いつもは、半ズボンなのになぜか長ズボン。鋭児郎の近くまで行って、長ズボンを捲ってみた。

「ちょ!名無し」

「鋭児郎」


やはり怪我をしてた。冷たい水で血を止めたのか、流れていた後はある。


「ここに座って」

ソファに座らせて、怪我をしている左足を出してもらった。そして消毒液を傷口に掛けると眉を潜ませて、痛みを堪えている顔。


「はい、よく我慢できました」

「俺をばかにしてるだろ?」

笑いを堪えて言えば鋭児郎は私の弱点の脇腹を擽ってきた。私が倒れてもお構い無しに擽ってくる。

「やめっ、鋭児、郎」


鋭児郎も倒れこんできて、私の上で止まってしまった。気を遣っているのか体重があまりかかってこない。

優しく背中を撫でてあげれば、答えるように身を捩る。ふぅと溜め息が聞こえたと思えば楽にしたのか、体重がかかってきた。


「名無しの匂いめっちゃ、落ち着く」


胸元で息を吸ったり吐いたりしてるのがわかる。なんか、可愛らしい犬に見えてきてずっと頭を撫でていた。


急に顔をこちらに向けたと思えば近付いてくる鋭児郎の顔。他のヒーローより顔は負けているとか言ってるけど、本当はイケメン。目は大きくて、小さい頃につけた目の上の傷。赤い瞳が私の目と合う。

どちらも目は離さなくて、目も閉じない。
鼻が当たるぐらい、近くて息が当たる。

「なぁ、名無し」


「ん?」


「俺が、死んだら他のやつと幸せになれよ」


「鋭児郎が死んだら私も一緒に死ぬつもりだから」


鋭児郎は何を思って言ったのだろう。唇を合わせたと思えば、深いキス。私の舌と絡んで吐息が溢れる。

何度も何度も啄んで、鋭児郎の男性としての瞳が写った。




気づけば、二人とも裸で行為の後だった。9時を回っていて、時間が経つのが早く思えた。


「俺と死ぬつもりって本当か?」


「嘘をつくようにみえる?」


私の頭を撫でた鋭児郎。ぐるぐるとお腹が鳴る音が聞こえて、私は笑ってしまった。


「ごめん、ご飯食べてない」


「ムードぶち壊す気かよ、俺の腹は」

触れるだけのキスをして、私は立ち上がろうとした。が、腕を引かれて鋭児郎の上へ倒れてしまった。


「やっぱ、飯より名無し」


「腹上死でもするつもり?」


「まだ死なねェけど、いつかはな」


笑った彼に私も笑った。
また啄むようなキスをする。



笑う君に

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