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□気づいたら鮮やかに
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私と、スパイダーマンの関係はとても仲のいい友達だ。スパイダーマンと言っても、マスクを脱げばピーター・パーカー。私と同じクラブで、同じクラス。


スパイダーマンの正体がピーターだって知ったときは、友達のネッドとピーターの家へ行かせてもらって部屋に通されて、戻ってきたのはスパイダーマンでマスクを脱いだらピーターだったこと。驚いたけど、三人の秘密として秘密は守り抜いた。
スパイダーマンのウェブ?を使わせてもらって、とても面白い経験だった。


「名無し子」

急に眉をへの字にして、泣きそうになっているピーターを見たときは正直焦ってしまった。彼がなぜ泣きそうな顔をして、私の部屋に来ているのか。
理由を聞けば、想いを寄せていたリズが転校してしまうらしい。ホームカミングパーティーの時もスパイダーマン活動を優先していた彼は、申し訳なさそうだった。
それと、リズがいなくなってしまうこと。

失恋をしたのか、と思ってベッドにピーターを座らせて私はその隣に座る。話を聞きながら彼の背中を擦って、好きな音楽をイヤホンで共有する。


「僕、この曲好きだよ」

「私も」

そう二人で言って、曲が変わるたびに感想を言い合った。



‡‡

世界は5年過ぎていて、父親だけが5年だけ年を取っていた。何が起こったかわからなくて、ピーターにずっと質問をしていた。

そして、もう一度学年をやり直しているときにピーターの心情が変わり始めていた。

「MJって、何の花が好きなんだろう?」
「MJは何の映画が好きなんだろ」
「MJはどんな人が好きなんだろう?」

ピーターは、よくMJの事を話すようになった。たまに、彼女とピーターが喋っているのも見ているし、仲が良さそうに課題をしている姿も見る。

「あれ?ピーターは?」

「補習だって。MJたちと」

カフェテリアでノートを開きながら、ネッドの話に耳を傾ける。MJはピーターをどう思っているかはわからないけれど、ピーターは確実にMJに恋をしているって。
私は何度が、シャープペンシルの芯を折ってしまいカチカチと押す音だけが耳に響く。

「あいつ、次の研修旅行でプラン立ててるんだ。名無し子も一緒に立てる?」

「私はいい。どこかの誰かさんみたいに、好きな人に告白するプランなんてないし」

不機嫌か私を見てか、ネッドは黙ってしまった。申し訳ないが、最近の私はいつもの私にはなれない。

最近、ピーターとはクラブの席が近くならずに隣は動画の配信をしているフラッシュになっていちいち突っかかられるのが正直うざい。
ピーターはネッドと楽しそうにそのプランを立てているんだろう。ため息が溢れてしまった。

あー、研修旅行楽しめる気がしないな。


「隣退いて」

「おい!」

女の子の声が聞こえたなって思ったら、フラッシュを無理やり退かしてMJが私の隣に座っていた。なんで、私の隣に座るのかがわからずに、呆然としているとMJが私に笑いかけた。

「なに、その顔。あの二人と最近一緒じゃないけど、なんかあった?」

MJにピーターが貴方の事を好きだと伝えられない、なぜならピーターと私の仲だ。そのプランが崩れてしまう。

「別に何も。ピーターとネッドは旅行のプラン立ててるから、迷惑かなって思っただけなの」

オブラートに包んで、MJに言うと彼女はニコッと笑い私の顔を見て声に出した。

「私も一緒にプラン立てるよ。名無し子と一緒に」

そうMJは言ってくれた。だけど、ピーターはMJとヨーロッパを回りたいと思っている。私が傍にいたら邪魔だろう。何を観たいか、何を買いたいかを私に尋ねてくれたけれど、悲しくなってきた。

MJと私が一緒に居ていたら、ピーターが……。

「っ…ごめん、MJ」

私はクラブの活動なんて放置して、鞄を持って文房具をかき集めて外に出た。走って、走って、途中でハリストン先生に会ったけど話も聞かずに学校の外へ出た。

息を切らしながら、しんどいけど、何かが私の心の中で蝕んでいる。


涙が落ちてきて、それを拭いながら歩く。すれ違った人たちが何か言っているけど耳になんて入ってこない。


なんで、私はピーターの事を避けていたのか。MJが一緒に観光をするプランを立ててくれるのが、嫌だったのか。そのときに、なんでピーターの事を考えたのか。



ピーターが私じゃない誰かに恋をしたと聞いて、悲しくなるのか。



あ、これは友情の中にあった恋なんだ。
そう思った瞬間、目の前の店の看板のネオンがいつもよりも鮮やかに見えた。


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