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□心がカラになっても
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昨日までが、幸せでしたの続き
まだ、ヒーロー活動を再開し始めて数ヶ月経ったころ。私はトニーさんに呼ばれ、ベルリンに向かっていた。ソコヴィア協定で意見がキャプテンとぶつかり合って、対戦になるらしい。
私は悲しかった。慕っていたキャプテンたちと戦わなくてはならないと考えると、戦う気が失せてしまう。
そんな中、ハッピーに連れられて同じ飛行機に乗ったのは同じクラブで後輩のピーター・パーカー君だった。
「え、名無しさん?」
お互い顔馴染みで、これから行く先も知っているのでとても気まずい空気になってしまう。ピーター・パーカー君もヒーローなんだとわかった。
飛行機でくつろぎもせずに、ピーターと話をしていると彼がスパイダーマンだということを知れた。
そして、ここから呼び方が変わってきた。
ホテルに着いて戦って、ホテルに戻ると一人でいられなくなった。
次の日は、ピーターとベルリン旅行をしてピーターの性格に少しずつ惹かれていった。
その日にピーターの部屋を訪れるとパソコンが変に半開きになっていて、イヤホンや傍にあっただろうティッシュ箱が転がっている。
「きょ、今日は楽しかったね!」
「うん。ベルリン旅行は終わりでヒーロー活動も終わりだけど、学校に行っても仲良くしてね」
握手を交わそうとしたけれど、ドアをノックする音が聞こえてピーターが出た。すると、声からハッピーとトニーさんの二人がピーターに何か言っている。
「おいおい、思春期真っ盛りなのはわかるがホテルに来てAV鑑賞か?なんなら、ベルリンの女性をナンパ……来てたのか名無し子」
私を見たトニーさんは、驚いて咳払いをした。前の話が気になるが、ピーターは大人のビデオを見て高額請求されたらしい。顔が真っ赤になっていくピーターを見ていると笑けてくるがあの頃は、ピーターをからかえずにいた関係だった。
††
目を開けると、頭が痛くて起き上がれない。なんで、昔の事を思い出したのかわからなかったが一瞬だけ、夢が現実だと思っていた。
トニーさんと久しぶりに話せて嬉しい気持ちがあったのに、現実に引き戻されると心に穴が空いた状態になる。
ため息を着いてふと目を移すと天井は鉄骨で床はコンクリートで冷たい。なんでこんな所にいるかわからなかった。確かに空港に行って、飛行機に乗った気がする。
いや、もしかすると………。
「名無し子!!!」
誰か男の人が私を呼んでいる。私を起き上がらせて、私の口許を拭ったのはベックさんだった。私に何が起きたのかを聞く前に、彼は少し眉を曲げて私を抱き締めた。
「名無し子、良かった無事で……」
抱き締められていると、急に地鳴りがしてベックさんが何かに引っ張られるようにして暗闇に消えた。本当に何が起こっていて、私はどこにいるのかわからない。
「ベックさん?」
「来てはダメだ!」
彼が何かにやられているのか、うめき声が聞こえる。そして、叩きつけられたような音。私は起き上がらない体で顔だけを暗闇に向けた。
そこには、力なく突っ伏しているベックさんがいていた。駆け寄りたいが、体は一向に動かない。そして、彼の向こうからやって来たのはよく知っている人物だった。
「酷いよ、名無し子さん」
「ピーター……?なんでベックさんを」
ピーターがこちらに歩いてきた。いつものピーターとは雰囲気が怖かった。ピーターのステルススーツには赤黒い血がついていて、これはベックさんの血かもしれない。
「やめてピーター。ピーターがなんでこんなことするの?」
私は動かない体を必死に動かそうと、顔を上げた。それを見下ろすようにして、マスクを被ったピーターは私の隣に屈むと恐ろしい程の低い声で言った。
「全部、スタークさんと名無し子さんのせいだ。僕がこうなったのは」
「ピーター」
私の頭を狙った足。しかし、それは空を切る。
私の目に写ったのは、ピーターがホログラム化してその後ろにはドローンが。周りの風景も消えていき私は橋の上の展望通路にいることがわかり、私はロープで拘束されている。そして、マント姿ではなく真っ黒な服と透明な被り物を被ったベックさん。
「おい、なんかショートした音が聞こえたぞ!それと、あの博物館に隠れたガキ達はどうなったんだ!両方の確認を急……」
私とバチッと目が合ったベックさんは狼狽えながらもこう言った。
「エレメンタルズが幻像を見させていたんだ……!お…僕のスーツはピーターが持っていった!信じてくれ!名無し子」
下から大きな爆発音、ベックさんの隣を飛んでいるドローン、噛み合わない話。そして、彼がかけているサングラスとあの人の名前が書いてあるドローン。
「違う地球から来たのも、エレメンタルズがいたのも、私が奥さんに似ているのも、全部嘘だったんだ……。私に好意を持っているように見せたのも、全部ピーターに近づくため?」
「違う!!名無し子、聞いてくれ」
「だったら、なんでトニーさんのドローンがベックさんの隣にいるの」
後ろへ後退りしたベックさんだったが、トニーさんの名前を聞くと急に顔が変わった。そして、インカムに向かって命令をするとトニーさんの名前が入ったドローンは私に近づいてきた。
ヤバイと思ったまま身動きが取れないまま、目を瞑ってしまう。
ガラスが割れる音。ドローンが壊れたような音。そして私は暖かい何かに包まれた。
目をゆっくり開けると、そこには黒と赤のスーツを身に纏った彼がいていた。
「ごめん、遅くなって」
私を抱えていたのはスパイダーマン、ピーターだった。新しいスーツなのか、格好いい。
「悪役の登場か」
「僕は悪役じゃない。悪役なのはミステリオだ」
そう言いながら私に巻かれているロープを解こうとしている。ミステリオの攻撃が始まる前にロープが解けて、私は動けるようになった。
「……名無し子さん」
「MJ達を助ければいいんだよね。わかった」
私は窓から飛び降りようとした時、ピーターに腕を掴まれた。そして引っ張られて、私はマスク越しのピーターと唇が重なって離れる。スローモーションに見えた中でピーターが言いたいことはわかる。そっと私はピーターを押して離れ展望通路から飛び降りた。
‡‡
無事にミステリオを倒し、私は学力コンテスト部の後輩達を助け、無事にこの事件は終息するかと思っていた。
たまたま、仕事の休憩時間だった。
着信音を知らせるバイブ音が鳴って、私は電話に出るとピーターからだった。
「名無し子さん!名無し子さん!!て、テレビつけて!」
「ちょ、ちょっと待って」
急いでテレビを着けるとそこには、なぜか私のヒーロー時の姿と普段の時の顔写真。そして、スパイダーマンとピーターの顔写真が映し出されていた。
ー今回の事件の犯人はピーター・パーカーと名無し子・名無しだ!ー
「嘘でしょ?」
私たちはまだ、ミステリオ……クエンティン・ベックを倒せていなかった。
To be continued
For:確かに恋だった