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□昨日までが、幸せでした
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次のアイアンマンは誰?

あの戦いの後でよく聞かれた事。その質問が一番多かった。みんながアイアンマンを求めているのがわかったし、またサノスのような強い敵が来るのが怖かったんだと思う。

私はその質問に「わからない」とだけ伝えて、メディアの的になることをできるだけ避けた。何かをいえば、誰かがまた私みたいに困るかもしれない。

その考えは甘かったのか、もう一人のニューヨークのヒーロー。スパイダーマンも同じような事を聞かれていたらしく、電話で私に助けを求めていた。

元々は高校の中での先輩後輩関係で、共にヒーローだった。だが私は指パッチンの生き残りで、5年も月日が流れ消えた友人とは5歳も歳が離れてしまったおかげで、スパイダーマンことピーターと6歳も歳が離れてしまった。

そして、なぜか学力コンテスト部のOGとしてハリストン先生に呼ばれた私はピーター達と共にヨーロッパに来てしまう。まぁ、正確に言えばピーターにヨーロッパに行くことを伝えたら、それをハリストン先生に知られて呼ばれたということになる。
ハリストン先生たちには、仕事があるからと言って抜け出したが、本当に仕事をしていた。


仕事でホテルのラウンジでの取引を待っていると、テレビのニュースから水の怪物を倒したという謎の男ミステリオについて放送をしていた。

私はその人を見たとき、一瞬頭の中でアイアンマンに見えたがよく見れば手から出るのは緑色の光線だし、あの特殊なスーツを着ていない。
この人は誰なんだろう。もしかしたら、新しいヒーローかもしれない。いや、絶対この世界を救ってくれる。

頭の中はぐるぐると、新しいヒーローの事でいっぱいだ。



フューリーに呼ばれその噂のミステリオと会ったのはその日の内だった。
ミステリオではなく、クエンティン・ベックという名前でマルチユニバースから来た人らしい。

「君も……ヒーローなのかい?」

ミステリオ……ベックさんは私の顔を見て不思議そうにしている。その訳も私自身もわかる。今の格好は仕事着のブラウスに黒いチノパン姿。とても、アベンジャーズの一人だったとは言えない姿だ。

私はベックさんに、ヒーローだと言うことを伝えてから、一様ヒーローの時の名前を伝える。すると、不思議そうだった顔がはっとした。

「一度だけその動画を見たことがあるよ。その時と全く違うからわからなかった」

5年前の私はまぁまぁ有名だった。その頃の事を考えると私は大人になったんだろう。遠回しに言われていることに気付いて、恥ずかしくなって首の後ろを掻いた。


作戦とその怪物の事を聞いてから、フューリーはピーターと私を送ってくれようとしたのだが、私はその怪物の事を詳しく知りたくなりその場に残った。怪物の事を教えてくれたベックさんだったが、途中で思い出したように私に言った。

「そういえば、ピーターは君のボーイフレンドなのか?」

なぜ、今聞かれるのかわからなかった。ただ、彼の瞳を見ていると心の奥を見られているようで怖くなり正直に話した。

「5年前までは、ボーイフレンド。あの指パッチンが無かったら……今も」

最後の方は呟くように話してしまい聞き取れなかったと思う。
なぜ、ベックさんはそんな事を聞いたのか不思議に思っているとポツリポツリと言ってくれた。

「君が……ものすごく妻に似ていて」

それを聞いて、心の中で複雑な思いが入り交じる。ぎこちなくなって話を無理やり変え、私はベックさんに怪物の弱点などを聞いた。だが、その怪物の能力的に私が出る幕は無いかと感じた。


物理的攻撃が効かないのは私にとって、不利だ。


フューリーの力は大きく、ホテルを変えたり行き先を変えて私たちのヨーロッパ旅行は予定変更が多かった。私も取引先の会社が急に変わったりと驚く事が多い。その道中にアクシデントが何個かあったがピーターの機転によりなんとか回避できた。


ピーターの隣に座って他愛のない話をしていたが私は感づいた。もしかすると…と思ってピーターに聞いてみた。
「ピーター、もしかしてあの子、えーっと…MJの事が好きなの?」

そういうと、サングラスをかけてこっちを見るが目をパチパチとして口を開けている。

「いやいや、ちょっと待って。僕は…名無し子さんの」

「ボーイフレンドだった。だけど、あの指パッチンで離れ離れになって……5年経ってピーターは帰ってきたけど私はもう20歳を過ぎたおばさんで、ピーターは高校生。もう、ピーターはピーターの好きな人と高校生活を過ごしていいんだよ」

それを聞いた方がピーターは静かに前に顔を戻した。もう私たちは5年前には戻れない。
アイアンマンがいた時になんて戻れないんだ。


‡‡

私たちはエレメンタルズを倒した。というが、ベックさんが命からがらエレメンタルズに突撃したのだ。
私は力不足だと感じた。何もできずにただ、観覧車を守り人々を守っていて、怪物に拳を突き立てていない。


倒れているベックさんに駆け寄ると、少しだけ弱々しい笑顔で私の髪を撫でるベックさん。

「無事だったか?」

「大丈夫。ベックさん、早く手当てを」

救急箱から消毒液や、絆創膏を取り出して応急処置をした。そして、ベックさんは私とピーターを飲みに誘った。

ピーターはまだ未成年なのでレモネードを飲み、私とベックさんはお酒を飲む。

世間話をしているが、ピーターはずっと黙っている。なんでだろう、と私は尋ねようとした時に私の携帯電話が鳴った。
外に行って電話に出てみれば、仕事の上司からでヨーロッパの出張から帰ってきてニューヨークの方の本部で仕事をしてほしいとの事だった。
ヨーロッパ旅行もこれで終わりか……と思って、バーに戻ればピーターは私を待っていて先に外で待っていると言ってくれた。ベックさんにお金を渡そうとした。

「いや、いいんだよ。私が誘ったんだから」

ベックさんの手元には、ピーターが掛けていたサングラスが。なんで、ベックさんが持っているのかわからなかったが、ベックさんの優しい微笑みと私の耳元で囁く声が私を翻弄させた。

「また、会えた時に」


あぁ、そういう事か。

私はその言葉を聞いて、ピーターの下へ向かった。


‡‡

名無し子が出ていき、ピーターと話しているのを見送ったベックは笑うと、人々や飲み物だった物が消えていく。
そして、残った人々と共に酒を持ちより乾杯をしている。


アース866からやって来た、家族を失った、新しいヒーローのミステリオ、これらは全て嘘だった。
最新の技術で戦っているように見せて、新しいアイアンマンになろうとしていた。まさか、誰もがそれが嘘だとは気付かないだろう。

酒を飲みながら、喋っていたベックは一人の男性に尋ねられた。

「あの、元アベンジャーズの女はどうしますか?信じきっているようですけれど……」

「名無し子の事か?あぁ、そうだな………ミステリオの相棒兼恋人はどうだ?あのスタークを慕っている仲だというがあの子だけは嫌いになれないな」

一口で残っていた酒を飲み干すと、ベックの口元は弧を描いた。そして、酔っているか酔っていないのかわからない口調でもう一言言った。

「あのピーターとまた復縁されたら嫌だけどな」


‡‡


「ベックさんにトニーさんのサングラスを譲ったの?」

「僕が譲る権利はあったんだ。僕は友達を殺しかけたし、何が起こるかわからない。僕はまだ子供なんだ」

私と顔を合わしたピーターは、5年前とは違った。もう、あの頃のような眼差しではなくなっている。覚悟を決めたんだろう。
泊まっているホテルが近くまで歩いて帰っていた。

「ピーター、私はもうニューヨークに帰るから……。MJに告白するの応援してる」

「ありがとう、名無し子さん」

久しぶりにピーターとハグをしたが、前より鍛えられているのがよくわかる。考えたら私は最近鍛えてないから、柔らかいかも。
久しぶりだとピーターは言って、まだハグをしていた。MJが待ってるよと私は言うと彼は静かに離れる。


「じゃあね」

ピーターに背を向けて、私は空港へ向かった。


To be continued




For:確かに恋だった


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