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□大切なただの幼なじみ
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スクールバスに乗って、学校に着いてロッカーを開けて一時限目の用意をして、仲がいい友達と他愛もない話をして。
何を楽しみにスクールライフを送っているのかわからなくなったけど、たぶん今はホームカミングが私にとって一番の楽しみ。

誘ってくれるのかが心配だけど、それまでのドキドキ感が好きなのだ。

真面目に授業を受けて、友人とご飯を食べてまた授業を受けて……。そして、またスクールバスに乗って家に帰る。


家に帰って、本を読みながら自分のベッドで寝転んでいると、急に風が私の髪を揺らす。窓は閉めているはず。

「今日は全然話しかけてくれなかったじゃん」


少し拗ねたような声が、窓の方からする。その後は床に足を下ろした音。

「ピーター、毎日私の部屋に不法で侵入するのやめてよ。これ、お母さんに知られたら大事になるんだから」

「だったら、窓の鍵閉めてないと」

窓から登場して、私の部屋に入っているのは上の階に住んでいて、私と同じ高校に通っていて、憧れのスパイダーマンの、ピーター・パーカーだ。
スパイダーマンということを、知られてはいけないはずなのに私にだけ話してくれた。それと、アイアンマンに会ったと興奮しながら。

私は最初は信じれなかった。憧れのスパイダーマンがまさかピーターだなんて。


「今日も、リズと目が合って嬉しそうにしてたね」

「え!?名無し子いつ見てたの?だってあれ、リズが僕にウインクしてくれたんだ!今日はラッキーだったなぁ」

しかも毎日毎日、惚気話を聞かされる。私が話を振ればピーターは喜ぶし、話を振らずに何も言わないと私の部屋の本棚に手を伸ばして無言で本を読む。そんな素直な彼だ。

私は本を読んだまま、ピーターの話を聞く。というか、ほとんど本の内容を読んでいるから聞いていない。


「名無し子」

名前を呼ばれたと思えば、ピーターが私のベッドにダイブしてスプリングで私の体が跳ねた。狭いベッドに二人。ピーターは私のすぐ傍にいている。

「僕の話より、名無し子の話は?」

顔が近い。あれ?ピーターってこんなに男の人だっけ?もっと可愛らしかった気がしたけど。


「何もないよ。学校の楽しみなんて」

「好きな人は?」

「やめてよ、いないってば」

「ふーん」

私の隣で寝転んでいるピーターは、目を閉じていた。その顔を見ると、昔とあまり変わらない。だけど、昔とはちがう。目を閉じながらピーターは口を開け、私に話す。

「覚えてる?幼稚園ぐらいの時に名無し子が僕と結婚してくれるって言ってたよね」

「覚えてないよ。ピーターが結婚してくれるって言ってたのは覚えてるけど」

「それで、小学生になったら好きな子ができてさ。名無し子が好きになった子が僕と喧嘩した」

「それで、負けたんだよね」

私たちは何の話をしているのだろう。恋愛の話なんて、中学生の時の修学旅行で女友達と話した以来だけど相手はピーター。とても不思議な感じで、私はピーターが男の子だって事を忘れかけていた。


「そのあとに、僕は名無し子とキスした」

「そうだっけ?」

「あの時は、結婚式の時のキスの練習だって言ってキスしたよ。喧嘩した男の子の目の前で。なんでか知らないけど、名無し子はその男の子じゃなくて僕とキスしたんだよ」

「たぶん、それはその男の子とのキスの練習だったんだって」


ううん、違う。その男の子とのキスの練習じゃなくて、負けても私を守ってくれるピーターにお礼のキスをした。頬じゃなくて、唇だったからあれが、たぶんファーストキス。ファーストキスなのに、恥ずかしくて誓いのキスの練習だってって言って、誤魔化してた自分がとても初々しい。


目の前にいるピーターが、突然目を開いてベッドのスプリングがぎしりと悲鳴を上げる。ピーターは私を跨ぎ、私は、ピーターの下にいる。


「じゃあ、キスの練習する?将来の恋人のために」

何を言ってるんだろう。そんな事、今の歳になってできないよ。ピーターを押し退けて、私は言う。

「ピーター、小さい頃とは違うの。私たちはただの幼馴染なのに、こんな練習してたなんて知ったら将来の恋人に失礼でしょ?」


そう、私とピーターはたぶん一生に切れることのない縁で繋がっている大切なただの幼馴染なんだ。


だから、壊したくないんだよ。





For:確かに恋だった


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