ぶつぶつ
□とくべつな日
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可愛い容器に入った、よくわからないブランドの高いヘアオイル。
わ、すごい、女みたいな匂いがする!
お姉さんって感じだ。
まっすぐすぎるくらいストレートの髪は、ちょっと伸びすぎちゃって、後ろ姿が女の子だよ、なんてよく言われるけどあんまり気にしてない。
腕にうっすらあった毛も剃ってしまってつるんつるん。
ニベアの青い缶のやつを、まだ水分が残ってる肌に塗り込む。ガッテン塗りっていうらしいよ。
眉毛は、結構前から薄くてほぼ無いんだけど笑
できるだけ、優しい雰囲気になるような形にした。
こめかみに小さくできた吹き出物が気になる。
だからってファンデーション塗るわけにもいかないから、気にしない気にしない。
ドライヤーで髪を乾かすとヘアオイルのバニラとなんかの花っぽい匂いがして、嬉しくなる。
おまえはさ、ドライヤーなんかしないで時間ぎりぎりに家をでてくるんだろう。別に、いいんだけどさあ。
高校生のころなんかは軽くアイロンして、ストレートをさらにストレートにしてたけど、今はもうしない。
なんでかって、自然なストレートのまま、ドライヤーでふわっとさせた方が、ほら、なんていうかさ、かわいい感じなんだよ。
3つ砂糖とミルク一杯ブチ込んで、あっまいコーヒーをのんで、ミンティア口に入れて、家を出る。
今日は、いっぱい頭を使うから。
女だったらちょっとくらいばかな方が愛嬌があるけど
おまえのあたまはなんかものすごく良くて
哲学者みたいってイメージがあるから。会話についていきたい。
待ち合わせしてたいつものコンビニに着くと、
黒い缶コーヒーと煙草。長いマフラーを巻いていて、ぱっさぱさの茶髪がくるくる跳ねてる。
「おはよう」
薄い目から目玉だけがこっちを見て、ハーって煙草の煙を吐いてから、おはよーって返事をする。
「なに、すげー良い匂いすんだけど」
気づいてくれた!って一瞬嬉しくなるけど、顔に出ないようにした。
そうだ、おまえはかっこつけだよな。
おれはわかってるよ。かっこいいって思ってくれる相手じゃなきゃね、そういうかっこいいところを見せたって意味がない。
そういう小手先でつくれるかっこよさに、かっこいい〜って思って、どきどきするような女を、おまえは嫌ってること、その反応を楽しんでニヤニヤすることも、知っている。
つまりおれは、おまえのなかでは、おもちゃ的な、そういう、存在だってこと。
「どこ行きたい?」
「えっとねえ、」
もういっそのこと、そのへんにいるような、馬鹿で可愛いだけの女にでもなりたいなあって思った。