book

□VIOLENCE#GIRL
1ページ/1ページ






「違う、そうじゃない、セバスチャン。
何度も言っているでしょう。」



ぴきっ

青筋が立った執事を、面白げな顔で見つめる。

ああ、なんて愉しいのでしょう。
悪魔を苛めるのは___

普段は鉄面皮もいいところ、空笑いに関しては右に出るものも左に出るものもいないセバスチャン。それだのに、いとも簡単に彼の怒りを引き出せるのは世界に私だけと思うと愉快で仕方ない。端正な顔立ちを歪めることができるのは、私だけなのだ。性悪ですって?生まれたときから心得ておりますが。

「あなたという悪魔はこれほど物覚えの悪いのですか?」

とどめとばかりに嘲笑を浮かべる。
彼の手には"Japanesefood Recipe"という本があった。










坊ちゃんが"wasyoku"を食べたいといった。

ただそれだけの理由で私は今、甚だしき怒りを身に余らせなければならないとは世の不条理というか契約における謬錯というか。出来ることなら目の前で下卑な笑みを浮かべる小娘を一瞬のうちに黙らせたいものだが、そうなると仕事"は"出来る女中を消してしまうのであくまで紳士としてスマートな振舞いというものを

「ああ、それでは味噌が濃すぎます。
だから言ったでしょう。
私がやった方が良いと」

「……」

人間の分際で私に口をきくなど、怒りを通り越し感心を通り越し尊敬を通り越しもはや何を感じるのが正解なのか分かりません。私としても対応に困り何度かダンボール箱に詰めて山奥に捨ててこようとは思い立ってきたのですが何せこの女は坊ちゃんのお気に入りときました。承諾もなしに坊ちゃんの所有物を手放してはお叱りを受けるのはこの私です。第一、日本料理を作るのに日本人である彼女の助力が必要だというのもあります。……だとしてもです。人を(というか悪魔を)小馬鹿にするような性格の悪さ。根性の悪さ。嫌みがこの人の言語だと納得できた時期もありました。今では遠い思い出ですが。

「いえ。
私が坊ちゃんに申し付けられましたので、貴女に任せてしまうとは執事の名が廃れます。」



セバスチャンの完璧な作り笑顔さえ意に介さないように彼女は言い捨てた。



「そうですか。ならどうぞ、
頑張ってください?」



最後にとびっきりの愛らしい笑顔で言い放ち、嫌みを言うだけ言って彼女は満足げに厨房から出ていく。

扉がぱたん、と閉まった。





「……」



がたっ、ばんっ、ととととっ。

渾身の力で包丁を振るい、ボウルでかき混ぜ、ややいき過ぎな火力を気にする様子もなくセバスチャンは調理を続けた。無心に。ひたすらに。

いつかあの小娘を黙らせ、調教する思索に耽りながら。




VIOLENCE#GIRL


.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ