素敵小説

□[イチオクノホシ]
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――ありがとう、ありがとう
 何度も言うわ。あなたに“ありがとう”――


【イチオクノホシ】


 今日は、新しい年のはじまりの日。
 ディアッカとふたりで新年の初詣。
 慣れない着物を着たりして、結構頑張ったんだけどな……わたし。
 参拝客で混雑した境内は、人の群れ。
 せっかく綺麗に着付けた着物もだんだん崩れてきてしまって、慣れない下駄で足が痛い。
 ディアッカは、そんなわたしの様子を気遣いながら、わたしの手をしっかりと握り、人ごみを掻き分けながらエスコートしてくれる。
 普段はあんなにどうしようもないけど、こうゆうときはすごく頼もしい。
 改めてみる恋人の一面に何故か意識してしまう。
 お参りのあとおみくじを引いた。
「あ、大吉」
「うっそ、ミリアリアすごいな」
 心底感心したように言うディアッカが、なんだかおかしかった。
「アンタは、どうだったの?」
「オレ? そんなの大吉に決まってるじゃない」
 不敵に笑ってみせるディアッカ。
「うそっ、アンタ嘘ついてるんじゃないの?」
「ちょっとちょっと、それはひどいんじゃない?」
「だって、ふたり揃って大吉なんて……不吉だわ」
「おーい、ミリアリアさーん? どうゆう意味だよ」
「だって、本当のことだもの」
「そこで、さらに突き落としますか……」
 ディアッカは力なく、がっくりとうなだれた。
 ちょっと、かわいそうだったかしら?
 でもこれもわたしの特権だもの。
「おみくじ結ばなくちゃ」
 わたしは、ディアッカを横目で見ながら、背伸びをすると、手近にあった枝におみくじを結ぼうとした。すると、わたしの両目を褐色の肌が覆い隠す。
「ディアッカ?」
「ばーか、大吉は結ぶといけないの。ミリアリア知らなかった?」
「え? うそ」
 ディアッカの声が後頭部から聞こえる。
「大吉、結んじゃったら。せっかくの幸運が逃げちゃうでしょ」
「おみくじって、全部結ぶのかと思ってた……」
「あのなあ……枝に結ぶのは凶とか、よくない卦が出たときに、運が上向くようにできるだけ神様の目にとまるように高いところに結ぶといいんだ」
「そうだったのね。勉強になったわ」
 わたしが素直に感心すると、ディアッカは満足そうに微笑んだ。



Fin
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