素敵小説

□わずか一瞬のときめき
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――不覚ッ! 一生の不覚!!

ミリアリアは、やり場の無い感情をベッドにぶつけた。
枕を手に、力の限り、彼女はベッドを殴り倒す。

「――ッの!!」

ぼすんっ!

大きく叩いて――気が済んだのか、あるいは疲れたのか、肩で息をしながら、虚空を眺める。
思い起こすのは、数時間前の、あの出来事――





わずか一瞬のときめき





その日、珍しくディアッカがブリッジにやって来た。彼はサイに用があったらしく、入ってくるなり、ミリアリアの背中越しの席へと直行する。
小声で交される会話は、真後ろにいるはずのミリアリアでさえ、しっかり聞き取ることは出来ない。

<聞かれたくないなら、どっか別の場所で話せば良いのに>

聞こえそうで聞こえない。そんな、ある種耳障りな声に、軽い苛立ちを覚えた時、

「順調?」

今度はディアッカ、ミリアリアの方へと移動する。
変わったのは、体の向きくらいだが。

「普通」

ディアッカを視界におさめる事もなく、ミリアリアは仏頂面で答えた。

「用が済んだら、さっさと帰ったら?」
「これから本題なんだけど」
「? ……サイに用事じゃなかったの?」

ここで初めて、ミリアリアはディアッカを見た。
彼はおどけた様に言う。

「わざわざ、サイに会いに来たりしねーって」
「何か、ひどいこと言われてないか?」

後ろから野次も飛ぶ。
しかしディアッカは、気にせず続けた。

「ちょーっと顔が見たくなって」
「誰の?」
「……分かれよ」

真顔で返すミリアリア。ディアッカは……彼女のぼけっぷりに、小さなうめきをもらしてしまう。


――どうして、ここまであからさまな態度を見せているのに、彼女は俺の気持ちに気づかないんだ?


ディアッカ的『AA七大不思議』の一つに上げられるほどの疑問点である。
そんなに鈍感な人間とも思えないのだが。
分かってやってるなら、それでこちらのペースを乱される事態は避けたいもの。彼はカマ掛け要素も含め、ずばり真意を問うてみた。

「本当に分からない?」
「分からないから聞いてるの」

ムッとして、そっぽを向いて。

……ああ、彼女は別に、意地を張るとか、天邪鬼モードに入ってるとか……意地悪しようと言ってるわけじゃないんだな、とディアッカは悟った。

本気で分かっていない。

今まで結構頑張って、親密レベルを上げていたつもりだったが――それは自分だけで、相手側はどうとも感じ取っていなかったようだ。
虚しさが去来する。

「ったく、あんたって一々回りくど――」

――ピピピッ。
文句は途中で掻き消えた。
ミリアリアの座るCICに、電文が届いた音である。
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