Novel2
□月に叢雲、花に風
1ページ/8ページ
面倒くさい。
オーブ連合首相国代表カガリ・ユラ・アスハは、自室で珈琲を片手に一人ごちた。
積み重なる仕事の合間、ほんの僅かな一瞬に胸を焼く存在が、彼女にはある。
積み重ねられた数多の資料の一つにその名は記されていた。
『オーブ連合首相国軍准将 アスラン・ザラ』
紙の上に記された名をそっとなぞると俄かに落ち着きをなくしてしまう。
掠われる。
多忙な日々の、緩んだ一瞬に。
彼とカガリを繋ぐ糸は、かつてのような恋人というそれではない。
それ以上に絆があるのだと、カガリは思ってるし、その絆な誇るべきものだ。
しかし、片翼を無くしたような不安定さは否めない。
思わずついた溜息は、誰が聞き咎めたなら涙を誘うような愛しさと切なさに溢れていた。
けれど、それをきいていたのは、すっかり冷めてしまった珈琲を湛えたカップのみであった。