屯する大輪
□*藍白色
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市丸は凝望していた。
碧落の喧騒も漸く鼓膜を震わせる程度には静寂に包まれている護廷内。恐らく今時は何処の隊も日々の書類業務に奮励しているのだろう。そんな中サボり魔の市丸は『サボる』というルーチンワークに奮励していた。勿論これは毎日のことなので彼の右腕である吉良も『サボり魔の上司を捕まえる』というルーチンワークをたった今、完遂したところだ。
「市丸隊長!またこんな所で油を売って……!!」
吉良に声をかけられても尚何処かを見つめるその人は、憤慨する吉良が見えていないかの様にポツリと言葉を漏らした。
「なして」
「はっ?」
「なしてあん人がええのん?」
自分の腹心の吉良には目もくれず、ただただ凝視する市丸。吉良は普段の感情の読めない飄々とした上司が見せる、えも言われぬ表情に驚き、また何がそこまで上司を駆り立てるのか、僅かながらの好奇心から市丸の視線を辿った。
「あれは藍染隊長と……雲居君?」
藍染隊長は言わずもがな、護廷十三隊のうちの一隊、五番隊の隊長だ。
五番隊第六席、雲居芙実。最近力をつけ、じりじり上位席官に繰り上がってきている女性死神。同隊の副隊長、雛森に随伴している姿をよく見かける。三番隊に書類を届けに来ることもよくあるので吉良も認識はしていた。
しかし……市丸隊長はそんなに彼女と親しい仲では無かったはずだ。少なくとも彼女側は隊長に良い思いは抱いていないように傍からであるが見て取れている。
「た……たいちょ……?」
「なしてボクやあかんのん……」
明らかに怒りの色が滲んできている市丸。ほんの少しだが霊圧も上がったように感じられた。吉良は少し萎縮しながらも市丸に再び声をなげかけた。
「市丸隊長!! どうしたんですか!?」
「………………あァ、イズルか」
ご免ご免と対して反省してなさそうに詫びるいつもの市丸。吉良はほっとしつつも、先程のあれは何だったのだろうかと思索してみた……が自分のような者に隊長の考えなんぞ到底理解出来やしないと直ぐに思考を放棄してしまった。
「もう……しっかりして下さい。貴方のせいで溜まってる書類がたーくさんあるんですからね!」
「ははっ……堪忍。」
吉良は隊内に未だ増え続けているだろう書類を想像して頭を痛めながら、少しでも早く終わらせたい一心で足早に廊下を進む。市丸はそんな吉良に引っ張られながら誰にも聞こえない声で嘯いた。
「ええよ……芙実ちゃん。直ぐにわからせたるから」
奇妙な笑みを残したまま。