欅坂長編

□欅学園サバイバル 〜感染〜
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友香side


音楽室に隠れていた私たちは、何とか外の状況を確認できる手段を探す。

でも、スマホはなぜか圏外で、窓の外を覗いてみても得られる情報は何もない。
二人ではぁっとため息をついて、茜と一緒に元の場所に戻ろうとする。




と、急に足首に何がひっかかって、バランスを崩す。転ぶ寸前で茜が受け止めてくれたから助かった。


足首を確認しようと首を捻ると、そこには絶対いて欲しくないものがいた。

「ひっ・・・!!」
恐怖のあまり、悲鳴も上げることができない。

茜も同じなのか、私の身体を受けとめた体制のまま硬直している。


私と茜の視線の先には、私たちと同じ制服を着た男子生徒・・・いや、異形、映画の中でしかみたことのない、いわゆる「ゾンビ」が机の下から這い出して、私の足首を掴んでいた。




「「離してよっ!!」」

必死に抵抗して逃れようとするけど、その力は凄まじく、全く緩む気配がない。茜が身体を引っ張ってくれるけど、ずるずると引きずられる。ぎりぎりと足首を締めあげられ、筋肉と骨が悲鳴を上げる。

「痛っ・・・・!!」
あまりの痛みに抵抗していた動きが鈍った。
その瞬間を待っていたのか、ぐわりと大きく開けた口の中に、鋭く尖った犬歯が見えた。


もうだめっ・・・!!
やがて襲ってくるであろう痛みを覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。






ぐじゅっ!!!
湿った音が部屋中に響いたのを聞いたのに、一向に痛みがやってこない。


「・・・・・・?」
あぁそっか、多分私、色んな感覚が麻痺しちゃったんだ。
おそるおそる目を開けると、そこには・・・。





右腕の肘近くの肉を無残に食い千切られた茜の姿があった。



「え・・・、なん、で・・・っ!!!!茜ぇっ!!!!」


「痛っ・・・!」





「あかね「人の彼女に、手ぇ出してんじゃねーよ!!!」
怒号一発。ついでに顔面に蹴りも一発。

派手な音を立てて吹っ飛んだゾンビ。
その光景に唖然としていると、ぼたぼたという奇妙な音に気がつく。



ふと見ると、食い千切られた茜の右腕から大量の血が流れ落ちていた。


嘘だ嘘だ嘘だ・・・!!
目の前の光景を受け入れられず、パニックになる。



「茜っ・・・!!なんでっ!!」
大量の血が水溜りのように床に広がっていく。
激痛でその場に座り込んだ茜。

「っ、茜、ちょっと我慢してねっ!!」
咄嗟にハンカチで傷口をきつく縛る。

「うぅ・・・!!」
真っ青な顔で脂汗が浮かんだ茜の顔が激痛で歪む。



「なんでっ・・・!?」
じわりと滲む視界の向こうで、淡く笑った茜。

「友香は、私の彼女・・・でしょ?友香、友、香をっ、守れるの、は私だけ・・・だからっ、。・・・何かっ、間違ってる?」
すでに荒くなってきている呼吸のなかで、でも淀みなくそう言った。


「茜っ、」
堪え切れずにぼろぼろと涙が零れる。泣いている場合なんかじゃないのに。色んな感情がぐちゃぐちゃで、思考がまとまらない。何を言っていいのか分からない。



「ほらっ!!立って、友、香っ」
ぐいっと腕を引っ張られ、立ちあがる。

茜の後ろには、蹴り飛ばされたダメージなど意にも解さない様子のゾンビが。


「逃げて、友香。」
とんっと背中を押される。

「なんでっ!?一緒に逃げるんじゃないの!!?」
茜の両腕を掴んで駄々をこねる。


「ご・・めん、痛みと、多分、ウィルスか・・・何かに、やられ、たみたい。頭くらくらして、うまく動けない・・・っ、ごめ、んっ・・・ね?」
力なく笑う茜の瞳が、段々と色素を失っていく。

「あかね・・・っ!!」

「早く逃げてっ!私から!!」
悲鳴にも似た茜の声にびくっと身体が震える。



「うぅ・・・っ!!」
苦しそうな声を上げながら何かに耐えるようにその場にうずくまる茜。
たまらずに茜に手を伸ばしたその時、視界が暗転した。



「え・・・?」
何が起きたのか一瞬理解できず、瞬きを数回する。
気がつくと茜は私に馬乗りになっていた。

「あか・・・ね・・・。」
異様なほど青白くなった皮膚。瞳の色は青みがかった灰色に変化して、首筋には細い血管が浮いている。
そして、茜の後ろからゆっくり近づいてくる男子生徒と同じように、鋭い犬歯が見えた。

「あかね・・・。」
縋るようにもう一度だけ、名前を呼ぶけど返事はない。
代わりに、ゆっくりと私の首に口を近づけてきた。


「ごめんね、茜。」
私のせいで。


「茜になら、食べられてもいいよ。」
もう聞こえないのは分かっている。だからせめて、せめてもの、償いを。
そっと茜の顔に両手を添える。
今度こそ本当にやってくる痛みを、受け入れるために。
そっと目を閉じて、その瞬間を待った。
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